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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(研修企画編)

10.講座設計の留意点

 コンプライアンス課題の中で、研修が有効な施策となり得るものについては、積極的な研修実施が望まれる。しかし、知識学習だから研修、そうでないからOJTというような短絡的な発想にならないように、講座設計の留意点を理解しておく必要がある。また、後述するような研修技法に関する知識も併せて身につけておきたい。

代表的な研修課題

 コンプライアンス課題とはコンプライアンスリスク(コンプライアンス経営を脅かすリスクの意)と同意語に近いと考えられるため、その内容は多岐にわたる。全ての課題に対して研修が貢献できる要素はあると思われるが、その程度には開きがある。知識不足に起因する課題については最も研修が効果を発揮するが、コミュニケーション不全やマネジメント能力の問題などについても、教育により改善できる部分についてはコンプライアンス研修が有効な施策となり得ることを見逃してはならない。

知識不足の解消

 法令学習が代表的である。知識伝達は研修の基本機能であり、最も研修で対応しやすい課題がこれである。しかし講座設計では知識羅列型が最適であるとは限らない。たとえば「法令学習を法律教育にしてはならない」ということである。受講者は、実務家として業務で法令違反を犯さないために必要な学習をしたいのである。最大の関心事は実務における留意点であり、危険回避の方法なのである。深い専門知識に関しては社内に相談相手がいるのだから、研修では自分で危険に気づけるセンスを得たいのである。したがって、法律を基礎概念から教えるのではなく、最低限のルール解説を行った後は、数多くの事例やクイズなどを通じてリスクセンスを養うことが重要なのである。

気づきの促進

 たとえば「風通しのよい職場作り」などはコンプライアンス経営の重要課題である。これを目指さない企業はないであろうが、自分のコミュニケーションが風通しの悪さを生んでいることに気づける人は意外に少ないし、風通しの悪さを解消する方法を知る人はさらに少ない。その意味で、これも研修が有効な施策になり得る課題である。気をつけなければならないのは、コミュニケーションスキルの教育だからといって、人事部門が主催する研修と同等のものを実施するのでは無意味であるばかりでなく、経営資源の浪費であろう。コンプライアンス研修ならではの講座設計が必要である。コンプライアンス経営においては、部下が上司に相談・通報しやすい環境の実現や、パワハラが疑われるような発言を避けることが主たる課題になるはずである。それに特化した講座設計を目指すべきである。

知識習得と仕組み整備

 情報セキュリティなどが代表的である。これも知識不足の解消により大幅な改善が見込まれる課題である。一般社員にとって理解不能な難しい情報技術の知識教育は不要である。むしろ日常業務の中で何気なく行っている行動が、実は非常に危険な行為であることに気づかせることや、紙媒体による情報漏洩が漏洩事件の大半を占めることを教えることで、情報セキュリティは一人ひとりの日常の心がけの問題であると理解させることが重要である。そのためには、事例紹介やチェックリストなどを活用した参加型の学習の併用が望ましい。情報セキュリティのように社内のインフラを整えたりルールの確立が重要となる課題については、研修と並行してそれらの整備(仕組みづくり)を進める必要がある。

人事部門との共催

 最近のコンプライアンス研修では、テーマによっては人事研修との重複要素が増大している。そのため、人事部門とコンプライアンス部門が共同開催する研修も見られる。限りある経営資源の有効活用のためにも、この取り組みは参考になるであろう。

<5 Check Points>

  1. コンプライアンス課題のうち、研修になじむものを識別すること。
  2. 知識不足の課題では、どのような知識を与えるべきか検討すること。
  3. 知識学習と並行して仕組み整備が重要になる課題に留意すること。
  4. 気づきを促す研修では、人事研修との棲み分けに配慮すること。
  5. 必要に応じて人事部門との研修の共同開催を検討すること。