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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(研修企画編)

12.研修技法の知識(2) 体験型技法

 体験型は、教えることよりも疑似体験を通じて受講者自らが気づくことを期待する研修技法である。講義の要素は最小限に抑えられ、講師には状況対応型のファシリテーションスキルが求められる。ファシリテーションスキルを習得するとともに、個々の教材(ケース、シナリオ、ゲームなど)にも習熟しておくことが、高い学習効果実現のためには重要である。

体験型の研修技法

 体験型の研修技法は、講義を伴わない学習手法である。講師は全くしゃべらないわけではないが、インストラクターとしてではなくファシリテーターとしての役割に徹するのが特徴である。このような技法の活用にあたっては、話術や知識の有無だけでなく、出てきた結果に対して柔軟に対処できる臨機応変な指導能力が要求される。また、使用する教材に精通すればするほど、より的確なファシリテーションが可能になる。

ケースメソッド

 ケーススタディが講師による「正しい答」の解説を意図した研修技法であるのに対して、ケースメソッドでは明確な答は存在せず、受講者は与えられた題材をもとに個人としての思索やグループ討議などを通じて、自分なりの答を出していくことになる。講師は受講者の考えに対しては、明らかな論理矛盾などを除き、原則として正解/不正解の指導はせず、受講者間の討議を通じて気づきを促す役割に徹する。ただし、コンプライアンス研修の場合には、会社として気づいてほしい正解が存在することもあるため、その場合には「正解」を提示することも許される。

ロールプレイ

 ロールプレイとは、シナリオに基づき、受講者が文字通り特定の役割(ロール)を演じる(プレイ)ことで、様々な気づきを与える研修技法である。コミュニケーションスキルを扱う講座で多用されるが、ビジネスマナー研修などの広義の対人関係スキルを扱う講座でも活用される。コンプライアンス研修では、内部通報や部下からの相談対応のスキル習得を目的とする講座で用いられることが多い。またパワハラ研修などで、上司役によるパワハラ的発言を疑似体験することで、それが如何に不快かを理解させるという用い方もある。このようにロールプレイの学習効果は、シナリオに参加する受講者が、役になりきることで、その体験の中で実践の難しさや感情の揺れを感じ取り、講義では得にくい深い気づきを実現する。

研修用ゲーム

 遊びの要素を研修に取り入れることで、楽しみながら気づきを与えようという研修技法である。一般に「伝言ゲーム」として知られる遊びも研修用ゲームとして用いることができる。この場合の「気づき」は、正確な情報伝達は、「十分に注意する」「正確性を心がける」といった覚悟だけでは実現は難しいことを理解し、復唱の励行やメモなどのツールを上手に活用することの重要性を感じ取ることである。ゲームという言葉の響きから新人や若年層対象の技法であると考えられがちであるが、運用次第で管理職研修でも十分に活用できるものである。

フリーディスカッション

 フリーディスカッションは、厳密には体験型技法とは呼べないかもしれないが、特定のテーマを与えて自由にグループ討議を行わせることで、他者の意見に触発されて気づきを得ることが期待できる。

<5 Check Points>

  1. 体験型の技法を用いるためには、ファシリテーションスキルの習得と、使用する教材への習熟が求められる。
  2. ケースメソッドは、答を与えるのではなく討議の中で気づきを促す。
  3. ロールプレイでは疑似体験の中から気づきを得る。
  4. 研修用ゲームでは遊びの体験の中で気づきを求める。
  5. フリーディスカッションも体験型技法として活用する。