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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(研修企画編)

14.取締役向けコンプライアンス研修

 取締役の法的責任は従業員とは全く異なることを前提にコンプライアンス研修を企画しなければならない。しかし、いまだ多くの取締役は、リスクマネジメントやビジネス法務の基礎を身につけていない。その点に配慮しつつ、会社法が求める責任を全うするための研修を企画する必要がある。

役割と期待

 通常の役員研修では、取締役(委員会設置会社の執行役を含む)だけでなく、経営上の意思決定に参画する執行役員などを受講者に含むことが多いと思われる。しかし、コンプライアンス研修の場合にはこの両者は明確に区別される必要がある。コンプライアンス研修では、会社法上、従業員とは明確に区別された取締役にふさわしい学習内容を扱うべきだからである。これまで我が国ではコーポレートガバナンスの議論が低調で、取締役の位置づけについても「代表取締役(社長・会長)の部下」あるいは「最上級管理職」であるかのような理解が多かったと思われる。しかし今後の取締役には、文字通り会社法が求めている経営責任を果たすことが求められる。その意味でも、意識改革の研修としてコンプライアンス研修を位置づける必要がある。なお、監査役と同様に、委員会設置会社の取締役については、名称は同じでも責任のあり方が異なるため、講座としては別物と考えるべきである。

コンプライアンス上の責任

 役員向けコンプライアンス研修では、会社法の求める取締役責任を重視すべきである。とりわけ代表取締役の業務執行に対する監視義務や取締役相互の監視義務など、これまでの慣行の中ではあまり意識されてこなかった事項について、理解を促すことが重要になる。

主な学習項目

 学習項目として最も重要な事項は会社法の知識であり、株式会社の「機関」に関する深い理解が重要になる。とくに取締役の経営責任については、判例などを振り返りながら、自分の問題として理解していただく必要がある。そのうえで、法令遵守体制の構築責任を果たすためには、ビジネス法務全般の知識が求められる。さらに実際に体制構築を指揮するためには内部統制をはじめとするリスクマネジメントに関する理解が欠かせない。仕組み構築の実務を担う管理職とは異なり、取締役に細かな技術知識を求める必要性は低いが、抜け漏れのない包括的な理解が重要になる。また、我が国におけるコンプライアンス概念は、法令遵守にとどまらず、企業倫理やCSR概念を含む広範なものとなっていることに鑑み、法令遵守を超えたコンプライアンス経営の施策を論じるための知識学習が求められる。

企画の留意点

 取締役向けコンプライアンス研修での現実の学習内容は、想定受講者たる取締役が管理職時代までに受講したコンプライアンス教育の内容により、大きく変わってくるものと思われる。管理職向けにリスクマネジメントやビジネス法務の教育が十分に実施されてきた企業では、取締役向け研修では会社法とコーポレートガバナンスに関する教育で十分であるが、そうではない場合には管理職向け研修と重複する内容を含ませる必要があろう。また、新任者と既任者では必要な学習内容が異なることが多い。新任者に対しては、従業員とは異なる取締役の法的責任の理解が重要になる。このことは子会社に取締役として出向する者に対する研修でも同様である。既任者に対しては、会社法の専門弁護士や法学部教授などを招いて、研究会形式で講座を組み立てることも有効である。

<5 Check Points>

  1. 管理職とは異なる取締役の法的責任の理解を重視すべきである。
  2. 会社法(とりわけ会社機関とコーポレートガバナンス)の理解は重要である。
  3. リスクマネジメント関連の学習では、細かな技術論より全般統制の知識が重要になる。
  4. 受講者が管理職時代に受けてきた研修内容により学習内容は異なる。
  5. 新任者と既任者では学習の重点が異なる。