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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(研修企画編)

18.新人・中途社員向けコンプライアンス研修

 新入社員(新人)対象のコンプライアンス研修では、通常の社員教育とは異なる前提をもって臨む必要がある。業務経験がない分、理解させる苦労は伴うが、純真で素直な側面を活かして望ましい価値観形成を狙いたい。

新人研修の留意点

 直前まで学生であった新人への教育は、通常の社会人教育の延長線上には捉えられない特性を有する。受講者を一人の大人として扱うことは必要であるが、いわゆる社会常識を有する一人前の社会人として扱うわけにはいかない。コンプライアンスの観点から「社会人とはかくあるべきもの」ということを認識させる必要がある。「なぜそうなのか」という論理から説き起こして説明するだけでなく、「我が社の求めるものはこれである」というように、一段高い位置から諭すような手法も併用する必要がある。

自己の立場の理解

 4月からの導入研修は長期にわたることも多く、この期間中、研修が続くため、意識が学生時代に逆戻りしてしまうケースも多い。そのため、学校の授業を聞くような態度で研修に臨んでしまいがちである。このような場合には、「学生は学費を払って授業を受ける」「社会人は給料をいただいて授業を受ける」「この1分、1秒にも給料が支払われている」というように、たえず学校での勉強と企業内研修の違いを確認する必要がある。そして、職場に配属され、実務が始まればその先の行動には法的責任が伴うことを説明し、そのリスクに立ち向かうためのコンプライアンス研修であることを理解させなければならない。

重要な価値観形成

 コンプライアンス研修は経営理念に基づくトップダウン型の研修であるため、どの階層に対する研修であっても価値観形成が重要であるが、新人は社会人として全くの白紙状態であることから、とくに価値観形成を重視しなければならないし、その効果も大きいと考えられる。たとえば、「不正な経費請求」を戒める際にも、それが犯罪であるという側面だけでなく、企業が正常な業務活動を行うためには、現場からの正しい報告が前提になることを説明し、経営管理の立場からの理解を促すことが重要である。その上で、「当社は『公正』であることを重要な価値観としている」ということを伝えるべきである。ある程度の社会人経験を積んだ社員に正義を説くのは骨が折れるが、新人であれば素直に聞いてもらえる。「鉄は熱いうちに打て」のたとえの通り、このタイミングを逃してはならない。

主な学習項目

 社内ルールやコンプライアンス関連制度についての説明は必ず必要である。その上で、新人にどこまでの知識を与えるかは、その後の教育計画との関連で決定しなければならない。また、新人は業務経験がないため、経験と結び付けて理解させることが難しいため、これから担当するであろう実務の実態を紹介しながら、実際に自分がその知識を使って仕事をしていくのだということを認識させなければならない。そのため、法令学習やリスク教育では、ケースを用いた研修技法などを工夫する必要がある。また、長期にわたって研修が続くため、気持ちの緩みを防ぐために、宿題や自主研究などを取り入れるような工夫も必要である。

中途採用者研修

 コンプライアンス研修は価値観形成と同時にコンプライアンスリスク対策が目的であるため、中途採用の社員に対しても、きちんと教育を施すことが必要である。社内制度の知識は、これから我が社の一員として仕事を進める上で必要なものであり、欠かしてはならない。また、中途採用者の中には、前職で十分なコンプライアンス教育を受けていない者も含まれるため、最低限必要なビジネス法務とリスク教育は必要である。

<5 Check Points>

  1. 新人に対しては、理屈で理解させると同時に、上からの価値観提示も必要である。
  2. 新人研修を価値観形成の絶好の機会として活用すること。
  3. 長期の研修に倦むことがないよう、適度なストレスを与えていく。
  4. 新人には実務をイメージさせる学習方法を工夫すること。
  5. 中途採用者への導入教育を忘れてはならない。