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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(教材開発編)

2.よい研修教材の要件

 よい教材とは最高の学習効果を実現できる教材である。また、学習の容易性、実務での活用可能性を最大化することが重要である。そのためには、講師にとって使いやすく、適切な情報量であり、過度の正確性追求を避け、学習者を困惑させることがないように注意深く作成する必要がある。

読みやすさ・見やすさ

 研修の主役は受講者である以上、受講者にとって「よい教材」であることが教材の第一条件である。受講者が教材を手にとったとき、必要な情報がどこにあるのかを探し出せなければならない。講師が解説をしているのがどこであるか、迷わず見つけられなければならない。そして、講義の終了後に見なおした際、講義の情景が活き活きとよみがえってくるものでなければならない。さらに、実務で使いやすいものでなければならない。

講義のしやすさ

 研修では、受講者は自習を行うのではなく講師の話を聞いて学習を進める。講義の善し悪しが学習効果に大きな影響を与えることは言うまでもない。よい講義のために、研修教材は講師にとっても「よい教材」でなければならない。講師にとってのよい教材とは、講義の進行計画に従って情報が整然と並べられていること、強調したい個所がハイライトされ十分な情報が記載されていること、そして不必要な情報が含まれていないことなどである。また、同じタイミングで解説したい情報は、可能な限り一覧性を持って記載されていることなども重要である。

適切な情報量

 たとえ知識学習を目的とした研修であっても、教材に記載される情報は「多ければよい」というものではない。一般に受講者は、その講座で扱う知識領域の初心者である。基礎レベルから実務で活用できるレベルまで無理なく学習を進めるために講義を受講するのである。学習の初期においては、必ず知っておかなければならない知識をできる限り理解しやすく伝達することが重要であり、講師は「これだけ主義」の精神で講義を進めることが望ましい。過大な情報提供は講義の焦点をぼやけさせ、学習の妨げとなる。逆に、ある程度学習が進んできた者に対しては、できる限り多くの情報を提供することが望ましい。しかしこのときも、膨大な情報を読経のように読み上げるような講義は好ましくないため、おのずと重点化が行われる。教材作成にあたっては、重要事項に絞ったレジュメと、実用的な範囲で可能な限り多くの情報を記載した補助資料の組み合わせとして準備を行うことが望ましい。

正確性と妥当性

 正確な情報提供の重要性はいうまでもないが、過度に厳密性を追求するあまり、かえって受講者の理解を妨げることは避けなければならない。たとえばセクハラ概念の説明においては、最初から法の定義に厳密に従って、男女双方が被害者となるケースを取り上げるより、最も一般的な女性が被害者となる事例をもとに解説を進め、十分な理解が得られた時点で逆のケースを補足的に説明することが望ましいであろう。同様に、網羅性を追求するあまり、めったに起こり得ない例外事象の紹介に時間を割くより、講義は9割以上をカバーできる範囲の説明にとどめ、「これ以上の知識はご相談ください」または「補助資料の解説をご参照ください」とする方が、より円滑な学習につながると思われる。

高い生産性

 研修業務においても、常に改善の意識を持つことは重要である。よりよい研修を実現するためには、教材も進化し続けなければならない。その際、全てをゼロから再作成するのでは効率が悪すぎる。「使いまわしの利く教材」として整備することも忘れてはならない。

<5 Check Points>

  1. 受講者にとってよい教材であることを第一に考えること。
  2. 講師にとってよい教材であることは、よい講義のために重要である。
  3. 学習目標に合わせた適度な情報量を維持すること。
  4. 過度な正確性・網羅性はかえって学習効果の阻害要因となる。
  5. 「使いまわしの利く教材」で生産性の向上を図ること。