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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(教材開発編)

10.視覚の心理学

 心理学や人間工学の研究成果の中には教材作成に役立つものが少なくない。教材は一種の読み物であるため、ここでは人間の「読む」という行為と「読んで理解する」という心理作用に関する研究成果を中心に紹介する。

視線の移動

 ワープロで横書きに段組みされた文章を読むのであれば、右から読んだり下から読んだりする人はいないであろうが、PPTのスライドに情報がちりばめられているときは、必ずしも作成者の意図通りの順序で読んでもらえるとは限らない。しかし人間の視線は、自然な状態では紙面に対して上から下へ、左から右へ、そして大きいものから小さなものへと移るのが普通である。そのため教材開発で情報を配列する際には、上から下へ、左から右へと読まれたときに正しい理解につながるように配慮すべきである。しかも、最も先に読んでほしい情報は相対的に大きく表示すべきである。また、乱雑に配置された情報を目で追う際には、同じ形の図形を探す、同じ色を探す、次の番号を探すといった心理が働きやすいことも覚えておくとよい。

段組みの注意点

 文章を段組みする際には、人間の目の動きを人間工学的に研究した成果が参考になる。1行の文字数は26文字が最適であり、30文字前後を超えると読む意欲が著しく減退するということを覚えておくとよい。一方、縦組みの場合には41文字までが許容範囲であるとされる。これは人間の目の構造が縦組みの文章を読みやすくなっているためであると考えられる。

形の認識

 図形を描画する際にはいくつかの注意点がある。文字や文章を四角い罫線で囲む際には、完全な方形を作るのではなく、角を丸くした形を採用することが望ましいとされる。脳の中で形を再現する際に、角の再現には大きなストレスが伴うということが実験によって明らかになっているからである。また、丸い形に囲む場合には、素直な円や楕円で囲むより、刺のあるいわゆる「爆弾(爆発)マーク」で囲む方が目立ちやすい。この形は、小さなものであっても人目を引きやすい性質を持つといわれる。

クリップアートの選択

 文章による説明のアシストとして、ソフトに添付されたクリップアートを使うことが多いが、いくつかの注意点があげられる。すでに述べたように、表現目的に適合したクリップアートを選ぶべきである。受講者はクリップアートも重要な情報の一部であると考え、その意味を解釈しようとする。目的に合わない絵を表示してしまうと、クリップアートのイメージに引っ張られ、情報を誤って解釈してしまう恐れがある。また、頻繁に使われるありふれたクリップアートは、読む者に「これは既に知っている」という錯覚を与える恐れがある。さらに、スペースが空いてしまったからといって、手頃なクリップアートで埋めるというのも好ましくない。クリップアートに注意が奪われ、本文の理解が阻害される恐れがあるからである。

色の用い方

 カラー印刷は高価なため、ほとんどの教材はモノクロ印刷で作成される。そのため、教材作成で色づかいを意識することは少ないが、PPTでレジュメを作成する際には注意すべき点がある。画面上で見るとコントラストが明確であっても、モノクロになると区別がつかない場合がある。たとえば表計算ソフトでグラフを作成した場合、情報系列の区別がつきにくかったという経験をした人は多いであろう。必ずモノクロで印刷して確認すべきである。また、あまりにも多くの色を使用したために、スクリーンに表示した際に重要ポイントが不明確になる恐れがあるため、色の使い過ぎは避けなければならない。たとえば原則として黒や青で情報を表現し、強調箇所に赤、注意を喚起する際には黄色を使うというような基本ルールを定めておくとよい。

<5 Check Points>

  1. 人間の自然な視線の移動に合わせて情報の配列を工夫する。
  2. 段組みを活用して、1行の文字数を抑制する。
  3. 文章を罫線で囲む際には角を丸くすることを心がける。
  4. クリップアートは目的に合ったものを選び、使い過ぎを避ける。
  5. 色の選択にはルールを定め、使い過ぎを避ける。