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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(教材開発編)

12.文章作成の留意点

 感動的な文章を書くには才能が必要であろうが、教材の執筆においては文学的才能は不要である。「文章の長さ」「段落の構成法」「文体の統一」及び「用字・用語の使い方」などの基本を理解し、それに忠実に記述することで最低限の品質を確保しなければならない。

文章の長さと句読点

 読点とは、文章を区切る「、」のことである。基本的に読点の使い方は書く者の自由だが、「文章の区切り」「間を表すとき」「長い修飾語をもつ主語や長い述語をもつ主語のあと」「並列の語句のあと」「接続の語句のあと」及び「語句の意味を取り違えやすい場合」につけるとされる。句点とは文章の終わりにつける「。」のことをいう。句点のつけ方に迷うことはないが、1つの文章の長さには注意が必要で、報道記事などでは15文字前後が理想であるとされる。

段落の構成

 段落には、ひとまとまりの意味を持つ文章の塊である意味段落と、文章が長くなるなどの理由で意味に関わらず区切られる形式段落がある。いずれにしても、ある程度の文章が連続した場合、段落を分割することは読みやすさの点で必要となる。また、1つの段落に全く異なる内容の文章を混在させてしまうと、読む者がこの段落で理解すべき情報を正しく識別できなくなり、文章全体が読みにくいものとなる。個々の段落をどのように構成するかについては諸説あるが、もっとも分かりやすく実践しやすいのは、「主題」「追加情報」「結語」という形である。最初の文章でこの段落で記述したい論点や主張を明示し、そのあとに主題を説明したり補足したりする複数の文章が続き、最後にこの段落の結論または次の段落への橋渡しの文章で結ぶという方法である。

常体と敬体の混在

 いわゆる「である調(常体)」と「です・ます調(敬体)」を混在させてしまうと、文章全体のリズムが崩れ、素人っぽい印象を与えてしまう。ビジネスの文章では、挨拶状などを除き常体が多用される。教材作成でも同様であるが、特別な場合には敬体を用いる。たとえば難しい概念の説明や読み手に過剰に堅苦しい印象を与えてしまう恐れのある事柄を説明する場合、あるいは「ソフトな伝え方にしたい」という強い希望がある場合などである。しかし、敬体を用いたからといって内容が分かりやすくなるわけではないことは認識しておかなければならない。

用字・用語のゆらぎ

 「又は」と「または」、「など」と「等」のように、同じことが異なる文字で表現されている場合を「用字のゆらぎ」といい、「1人」と「1名」、「規定」と「規程」のように厳密には意味が異なるがほぼ同じ概念を指す用語が混在する場合を「用語のゆらぎ」という。前者をなくすことは形式上の品質管理の意味合が強いが、読みやすい文章にするためには不必要に漢字を用いないよう心がけることが望ましいとされる(例:「特に」は「とくに」に直す)。教材では前者も重要であるが、それ以上に後者を避けるように心がけるべきである。受講者はその分野の知識に初めて接する者である。精通した者にとっては、「実務では規定と規程を同じものとして扱う」ことは明白かもしれないが、初心者にはこの表現の違いが気になるはずであるし、学習の妨げにもなりやすい。用語は統一すべきである。

語調の妥当性

 コンプライアンス教材では、とくに禁止事項については明確に言い切らなければならない。教材に曖昧な表現が用いられていてはそれが十分に伝わらない恐れがある。職場に戻った受講者にとって、禁止事項を確認する情報は教材しかない。「講義で補足すればよい」という考え方は甘いと言わざるを得ない。禁止事項だけなく、他の重要事項についても教材の表現(語調)の妥当性については入念にチェックすべきである。

<5 Check Points>

  1. 読みやすくするために長すぎる文章を書かないようにすること。
  2. 段落は共通の意味(目的)を持つ文章で構成すること。
  3. 常体と敬体の混在は避けること(基本は常体)。
  4. 同じ意味で異なる用語を使用しないこと(用語の統一)。
  5. 明確に言い切るべきことを曖昧に記述しないこと。