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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(教材開発編)

13.既存教材の改善

 誤字・脱字や内容の不正確さは、教材の品質管理上の最重要課題であるが、学習効果を高めるためには、それ以外の視点でも教材品質の改善に取り組む必要がある。とくに教材のデザインの問題については改善着手も容易なため、すぐにでも取り組むべきである。

読みづらい教材

 読みづらくなる原因の多くは文字情報の編集(文字書式)がよくないことである。本来ならタイトルに使用すべき太字のゴシック体を本文に使ってしまい、視認性が悪くなっているような場合や、行間や字間を詰め過ぎて、目が疲労してしまうような場合などである。このような教材については、本文には明朝体や細字のゴシック体を用い、字間・行間を適正に直すだけでなく、段落の区切りで間隔を大きくとり、余裕をもって文章の意味を拾いながら読めるように改善すべきである。また、スライドを表示した際の色づかいや、印刷配布した資料の濃淡が不適切であるために読みづらくなることも多い。この場合は、色づかいの基本ルールを定め、それに従ってメリハリをつけ直すことで改善したい。

理解しにくい教材

 この代表例が詰め込み過ぎの教材である。その場合は人間の認知限界(7±2)に配慮して、情報をブロック化することから改善に着手するとよい。また、各ブロックに適切なラベルが付けられていない場合も読む者にとっては読みづらい教材となる。このような教材は、内容を正確に表すラベルを付け、ラベルだけを目で追うことで全体を把握できるように改善すべきである。

説得力のない教材

 これは「研修効果の残らない教材」と言い換えてもよい。この代表例が図形を書き散らしたかのようなPPTの教材である。このような教材が用いられた場合、講師の説明を聞けば趣旨は理解できるが、教材だけを見ても何が書かれているのか理解できないものである。ぼんやり講師の話を聞いていた受講者は、研修が終了すると学習内容の振り返りすらできなくなる。このような教材でコンプライアンス経営の重要性を説いたとしても、教室にいる間はともかく、業務に戻れば全てが蒸発してしまい、研修効果が残らないという結果になってしまう。少なくとも受講者が読み返すことで研修の重要ポイントを振り返ることができるように改善したい。

実務で使えない教材

 法令学習の教材で、概念だけしか書かれていないようなものがこれにあたる。十分な研修時間が取れない場合、講義においては法の基本理念と重要ポイントの説明だけで終わるかもしれないが、実務では具体的な判断を要する事態が生じるはずである。法律の素人である受講者が生兵法的に条文を振りかざすことを勧めるわけにはいかないであろうが、「判断を誤らないためにはこの程度の知識は持つべきだ」というような情報提供は必要である。このような教材は、受講者に理解させたい事項(求める判断能力のレベル)を見定めて、そのために必要な最低限の情報を記載するよう改善すべきである。

安っぽい教材

 社内研修の教材は「売り物」ではないため、「安っぽくても内容がよければかまわない」という考え方もあるだろう。しかし、読む者が「安っぽい」と感じる原因の中には、読みづらさや理解しにくさが隠れていることが多い。またコストをかけていないがために安っぽくなってしまった教材(ホチキス綴じ、裏紙使用など)は、受講者の方にも永く保存して活用しようという動機が生まれにくいため、学習効果が低下してしまう恐れがある。誤字や文字ズレ(図形からの文字のはみ出しなど)が多い教材についても同様である。

<5 Check Points>

  1. 読みづらさを感じたら文字書式と色づかいを改める。
  2. 理解しづらいと感じたら、詰め込み過ぎを疑ってみる。
  3. 振り返り学習ができない教材では研修効果が持続しない。
  4. 教材には実務で必要となる最低限の情報を含んでおくこと。
  5. 安っぽいという批判には、本質的な問題を含んでいる可能性がある。