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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(教材開発編)

15.伝えたい内容と表現の工夫

 コンプライアンス研修の教材開発に際しては、まずレジュメをどのように作り込むか、それを補う補助資料にどこまでの情報を含むべきかを吟味することから始める。そのうえで演習教材などをどのように組み合わせていくべきかを考えていく。

コンプライアンス概念

 新入社員や中途入社社員に対しては、「コンプライアンスとは何か」「なぜ大切なのか」という点について、自社の考え方を理解させる必要がある。これらは言葉で書き表そうとすれば、A4版で1枚に満たない情報量で十分であろう。しかし、それでは言葉としての意味は伝わっても、「わが社がコンプライアンスを如何に重視しているのか」という核心に触れる部分は伝わりにくい。たとえば、過去に発生した「自社がからむ不祥事」の記録を引用したり、その際の売上や利益の減少をグラフ化したり、従業員が肌で感じた世間の非難の声などを紹介したりしつつ、「二度と過ちを繰り返してはならない」という意識にさせるような、心に訴える教材としてレジュメを作りたい。

制度知識

 社内でのコンプライアンス研修において必須となるのが、内部通報や危機対応などの社内制度の紹介である。制度の活用を促すことが研修の開催目的である以上、受講者が正しい知識を持つことが学習目標として最も重要である。しかし、もともと無味乾燥な知識の塊であるため、単なる知識伝達の講義に終始してしまっては、最後まで聞くにたえないものとなるであろう。このような研修では、できる限り臨場感を持たせる工夫が求められる。そのためには、「自分がこの制度を活用するとしたら」という前提で、「活用すべきかどうかの判断基準は?」「どのような手順を踏むことになるのか?」「その結果、私はどうなるのか?」というように、「私の問題」として理解させる工夫が必要である。特定の状況を想定したシミュレーション資料の作成も有効であろう。

法令知識

 法務担当ではない一般社員向けに法令学習を行う際は、教材開発は2段階の階層構造で考える必要がある。まず理解させようとする法令の概要や基本理念と守るための心がけなどを理解させることが必要である。たとえば個人情報保護法の研修であれば、同法が制定された背景事情や守るべき法益を理解させ、業務において常に心がけておかなければならない基本的事項を伝える教材が必要になる。このレベルの教材はレジュメだけでも十分であろう。そのうえで、詳細な規定とその解釈の解説や自社の個人情報管理体制の詳細に関する知識を整理した資料が必要になる。個人情報管理規程の全文とその逐条解説などが含まれることもある。講義中にこれら全てを読み上げるだけの時間は取れないことが多いため、補助資料として必要に応じて参照されることになる。

リスクマネジメント

 個別リスクへの対応に関する研修も増えてきている。個別の研修が実施されるほどの重要リスクであれば、当該リスクに対する管理体制も制度化されていることが多いため、教材開発に際しては「誰が受講者か」によって教材を作り分けることも必要になる。一般社員(非管理職)が受講者で、日々の仕事を振り返り、自己の業務の中で当該リスクの危険性に気づかせることで十分な場合には、レジュメ程度の教材で十分であろうが、部門長であれば管理責任が伴うため、より厳密な判断基準の提供が必要となる。さらにコンプライアンスリーダーなどの場合には、リスク対策における指導的な役割が期待されるため、リスクコントロール手法や関連法令の詳細な知識を含んだ補助資料の提供が望ましいであろう。

<5 Check Points>

  1. コンプライアンス教材の開発では、レジュメと補助資料の使い分けから検討を始めるとよい。
  2. 概念説明では定義の解説より、大切さを実感させることが重要である。
  3. 制度学習では、「自分の問題」として理解させるのがコツである。
  4. 法令学習は概略編と詳細編の2段階の教材が必要である。
  5. 個別リスク対策では、受講者に与えられた役割に応じて提供すべき教材のレベルを決める。