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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(教材開発編)

16.教材のライブラリ化

 教材開発はコンプライアンス教育という仕事の中で、最も手間のかかるものの1つである。慢性の人手不足に悩むコンプライアンス部門としては、生産性向上は急務であろう。その第一歩として、教材をライブラリ化して共有するとともに、適宜更新を行って品質保持を怠らないことを心がけるべきである。

教材蓄積と標準化

 教材が次第に蓄積されてくるとコンプライアンス研修の効率は飛躍的に改善してくる。既に誰かが作った教材があれば、同じものを新規に作成する手間が省けるからである。しかし、他人の作った教材は意外に使いにくいものである。そこでコンプライアンス部門として教材作成の標準を定めておけば、かなりの程度この問題を回避できる。また、メンバーの1人がある教材を完成させた際には、全員が目を通して、分かりにくい個所や誤解を生みかねない表現がないかを相互チェックすることも有効である。この取り組みの副産物として、自部門に蓄積された教材の全貌を全メンバーが把握できる点も見逃せない。そして共有のためには、執筆・編集に使うソフトの種類とバージョン、及び使用フォントの標準化も忘れてはならない。

レジュメの蓄積

 レジュメはその性質上、研修ごとに修正や作り直しが求められるため、蓄積があるからといってそれをそのまま他の研修に流用することは難しいものである。しかし、工夫次第でかなりの程度、流用が可能になる。その工夫の1つがユニット化である。たとえば、誰かが初めて「わが社の内部通報体制」というテーマでレジュメを作成したら、そのレジュメを「オリジナル」として登録しておく。その後の研修で、他の講師が内部通報制度に言及する際には、そのレジュメをベースに教材を作成する。時間が不足する場合には、一部の情報を削除し、時間が余る場合には新たな情報(スライドなど)を追加する。追加した情報はオリジナルにも追加しておく。このようにしてオリジナルを成長させていくことで、共有された知的財産が充実していく。

補助資料の蓄積

 補助資料は必要に応じて参照される資料であるため、研修に合わせて修正する必要性が低く、蓄積効果を享受しやすい。しかしその内容は、法令のような逐次改正される要素を多く含むため、定期的なメンテナンスを忘れてはならない。「どのレジュメにどのような情報が含まれており、どの法令が改正されたらどのレジュメを修正しなければならないのか」を誰かがきちんと把握しておく必要がある。ライブラリアンを選任する方法もある。その場合でも、担当講師が使用前に再確認することを省略してはならない。

演習教材・ケースの蓄積

 演習教材やケースも、ある程度の量が蓄積されてくると、コンプライアンス研修が大幅に多様化し、様々なニーズにこたえられるようになってくる。しかし、レジュメや補助資料と異なり、指導ノウハウも併せて共有しておかなければ「使えない情報」として死蔵されてしまう恐れがある。これらの蓄積にあたっては、指導方法や指導上の留意点なども忘れずに文書化して保管しておきたい。受講者に応じて場面や条件設定を修正するためのポイントなども保存しておけば尚好ましいであろう。

その他の資料

 自社で作成した教材ではないが、教材作成に活用できる資料類の蓄積も心がけたい。市販の文献を購入した際には部門として集中管理が行われるであろうが、インターネットからダウンロードしたPDF資料や、新聞・雑誌の切り抜き、HPを印刷した資料なども、しっかりした分類がなされておれば、教材生産性の大幅向上につながるであろう。社内報でトップがコンプライアンスについて言及した記事や、自社のニュースリリースなども、「総務や広報部門に行けばいつでも手に入る。」と考えず、コンプライアンス部門としても最低限の蓄積を心がけるべきである。貴重な資料であっても、身近になければ、結局は使われずに終わる可能性が高いのである。

<5 Check Points>S

  1. 蓄積した教材の活用のためには「標準化」の発想が重要である。
  2. レジュメは「オリジナル」を登録し、成長させていく。
  3. 補助資料はメンテナンスの責任者を定めておく。
  4. 演習教材やケースは指導法を含めて蓄積する。
  5. 役に立つ資料を入手した際には共有と蓄積の必要性を判断する。