ケースメソッドとは、ケースを用いて知識や理論を活用する実践的な教育技法である。教えてもらうのではなく、自ら考え学びとっていくことが特徴である。とくにコンプライアンス研修では、分かっていてもできない/やめられない理由について、内省する機会を与えることが重要である。
ケースメソッドとは、ケースを用いて知識や理論を活用する実践的な教育技法である。教えてもらうのではなく、自ら考え学びとっていくことが特徴である。とくにコンプライアンス研修では、分かっていてもできない/やめられない理由について、内省する機会を与えることが重要である。
ケースとは、特定の学習目標を達成するために、意図的に構成された教材で、前提条件、シナリオ、登場人物、出来事、環境、及び結果などから成り立った読み物である。教育の素材ではあるが、一般的な教材とは異なり、記述されているのは「事実(必ずしも現実に起きたこととは限らない)」であり、学ぶべき事項(知識や理論など)は与えられず、それらは学習者自身が考えて作り出していかなければならない。むしろ、知識や理論は既に身についていることを前提として、その応用や実践の場を提供することがケースの目的である。このようなケースを用いて、学習者自身が主体的に学ぶ学習方法をケースメソッドと呼ぶ。
ケースメソッドに対してケーススタディ(事例研究)という用語も良く耳にする。実務では混同されることも多いが、ここでは別物として定義しておく。ケースメソッドが「学習者が主体的に学んでいく」ことを意図した学習方式であるのに対して、ケーススタディは、同じように「事実(この場合には現実に起きたことを意味することが多い)」を題材に学習するものであるが、教材作成者である講師が学ぶべき事項を特定し、理解を助けるための解説資料などを用意し、学習者は講師から「教えてもらう」という受け身の姿勢で学習することになる。
ケースメソッドの第一の効用は、学習者が考えることを強制されることである。一般に「知っている」ということが「理解できている」ことにはつながらないし、「理解できている」からといって「実践できる」とは限らない。コンプライアンス研修の学習内容は「べからず集」型の知識が多い。これらを暗記したとしてもコンプライアンス経営が実践できる保証はない。超一流企業のエリート社員たちが引き起こす犯罪行為が報道されているが、彼らほどの人材がその違法性を理解できていないとは思えない。理解した上で行為に及んでいるわけであるから、そこには相当な事情があるものと思われる。その点について「なぜ」と問いかけながら、自分だったらどのように判断するか、そしてどのような行動を選択するかを考えるとともに、その行動がもたらすマイナス要素(正義の副作用)に耐えられるのか、といった点を深く考えることを求めるのがケースメソッドである。
企業倫理や法令学習で学ぶ事項の中には、「分かってはいるが実践できにくい」ことも多い。そこにリスクとジレンマが存在するからである。ケースメソッドにおいても、「きれいごと」の結論を出して終わることは可能かもしれない。しかし、上手にファシリテーションを行うことで、「しかしできないよな」「実際にはやってしまうかもね」という議論を引き出すことができる。なぜそう思うのか、目先の損得にこだわることが自分自身の将来にどんな影響を残すのか、といったことを本音ベースで話し合うことで、自分の心の影の部分に光をあて、自分の価値観が内包する危険性を自覚することができる。必ずしも正解があるとは限らないが、自分で考える経験(内省経験)を持つことが重要なのである。
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