コンプライアンス研修で用いられるケースには、定番といえる定まった形があるわけではないが、ここでは一般によくみられる形式のケースを紹介し、このハンドブックで「ケース」と呼ぶもののイメージを固めておきたい。
コンプライアンス研修で用いられるケースには、定番といえる定まった形があるわけではないが、ここでは一般によくみられる形式のケースを紹介し、このハンドブックで「ケース」と呼ぶもののイメージを固めておきたい。
X課長の部署には2名(Aさん、Bさん)の部下が勤務している。業務量には多少の変動はあるが、通常はさほど多くはない。
先日、他部署の業務でトラブルが生じて、昨年までその業務を担当していたAさんを、1週間の条件で応援に出した。その当時、X課長は重要プロジェクトのメンバーとして会合への出席や資料作成に追われ、自席にいないことが多く、ほぼ全業務をBさんが処理しており、さすがに負荷が高まっていた。
その週末、まとまった大量の処理が発生し、ちょっとしたパニック状態になった。しかたなく、プロジェクト業務は翌週にまわし、自らも業務に携わるとともに、Bさんにも残業と休日出勤を命じた。実はBさんは、昨年、多量の飲酒で肝臓を患ったため、今年になって比較的業務負荷の低い当課に異動になったのだが再発が懸念されていた。X課長もそのことは知っていた。しかし、最近は体調がよさそうだったので、多少の無理は大丈夫と判断したのだが、翌週Bさんは2日ほど休んでしまった。
後で人事部から聞いたのだが、Bさんの病気は完治することはなく、無理をさせないことが唯一の対策であるとのことであった。
このケースでは、非常事態における適切な労務管理のあり方を扱っている。管理職自身も多忙な業務に追われており、部下への指示にも制約がある状況下で、最も合理的な判断はどのようなものだったかを検討してほしい。
このケースの文章からは以下の問題点が読み取れる。
このケースで紹介されている部署は平常時の業務負荷が低く、労務管理に特別な配慮が不要な職場だと思われる。そのため、責任者のX課長の労務管理には全般的に杜撰な傾向がみられる。
業務処理を担当する部門の責任者である以上、先々の見通しを持って業務計画を立案することが求められるはずだが、その点について不十分であるといわざるを得ない。このことが原因で、本来なら大きな戦力になるはずのAさんの力を全く活用できなかったと推測できる。
また、多忙であることを理由に部下とのコミュニケーションが不十分で、推測で業務命令を出してしまっている。Bさんは、自分の不注意で健康を害し、会社に対して迷惑をかけている立場で、積極的に健康問題に触れることは難しいことに気づいてほしい。
さらにこの会社では、社員の健康管理(労働安全衛生)に責任を負うべき直属上司に対して、新規配属社員の健康状態について、どのような情報伝達が行われていたのか不明確である。制度上の不備も今回の問題の原因の1つであったと考えられる。
このケースでは、以下の1つでも解決されていれば、このような問題は生じていなかったと思われる。
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