ケースメソッドでは分厚いテキストを作成する必要はないが、だからといって準備が不要なわけではない。実施目的を確認し、受講者の特性を理解し、求める学習効果を確実に実現するための仕掛けを工夫することが必要である。
ケースメソッドでは分厚いテキストを作成する必要はないが、だからといって準備が不要なわけではない。実施目的を確認し、受講者の特性を理解し、求める学習効果を確実に実現するための仕掛けを工夫することが必要である。
ケースメソッドを用いる研修の準備は、学習目的と目標の設定から始まる。学習目的は、知識学習(法令・制度)、マネジメントスキル開発、及び倫理観醸成などに分けられる。知識学習を目的とする場合には、学習目標としては、どのような分野の知識をどのレベルまで習得させるのかを明確にする必要がある。知識学習ではケースメソッドは補助的な学習手段となることが多いので、講義のスケジュールをにらみながら準備を行う。一方、マネジメントスキル開発や倫理観醸成を目的とする場合、学習目標を考えるためには誰が受講者なのかという点が重要になる。受講者が管理職の場合には、現場でのマネジメントの阻害要因を取り扱うことが多くなるし、中堅社員の場合には担当業務の中で生じて来るジレンマなどを取り上げることが多い。経営層の場合には戦略レベルの意思決定における二律背反のコンフリクトなどを取り上げることが多くなると思われる。
開催時点での受講者自身の能力を確認することを忘れてはならない。たとえば管理職対象のマネジメントスキル開発を目的とするケースで、「不適切な人事評価」に起因する問題事象を扱う場合、人事評価制度への理解が十分な場合とそうでない場合で、議論の展開が大きく異なることが予想される。後者の場合では、人事制度の不完全さ(欠陥)の議論に終始する恐れがある。その場合、解決策としては「人事制度の再構築」ということになり、自らが関与して問題を解決するという視点は得られ難いであろう。これでは他人ごとの議論になってしまう。ところが前者の場合には、そもそも人事制度とは不完全なものであり、管理職による運用上の努力でそれを補うべきであることが理解できているため、自らの行動改善による問題解決が重要な論点となるであろう。このように、ケースメソッドでは受講者の能力次第で学習効果が大きく左右されることがあるので、能力に応じた題材の選定が重要になる。
ケースメソッドで使用する教材は、ケースシートと解説資料である。ケースシートの作成については、この後の項で作成手順や留意点を詳述するので参照していただきたい。解説資料については、ケースの性質上、明確な解答を用意できないことが多く、必ずしも配布する必要はない。ただし、そのような場合であっても講師の指導用の資料(ティーチングノートとも呼ばれる)は準備しなければならない。この資料には、想定される議論の展開模様や結論、検討に必要なスキルを受講者が保有していない場合の指導ポイントなど、教える側として準備すべき情報をまとめておく。
ケースメソッドを採用する場合には、受講者の人数制限が必要になる。1人の講師が指導できる受講者数には限度があるためである。グループ討議を行うため、会場ではグループ形式(アイランド型)で着席してもらう。1グループの人数は5名前後が最適であるとされる。3名以下では相互啓発が期待できず、7名を超えると参加できない受講者が生じるリスクが高まる。討議を円滑に進めるために、グループごとに、ホワイトボードなどのディスカッションツールを用意することが望ましい。また、全体検討を行う場合、全員が議論に参加するためには、受講者数が20名を大きく超えないようにしなければならない。
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