AKF Logo

コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(ケース指導編)

6.ケース作成の基本手順

 短いケースであっても、いきなり文章を書いてしまうことは避けること。ケースはきちんとした手順に基づいて作成されなければならない。現実味のあるシナリオ作成と巧妙な文章表現をこころがけるとともに、現場の人たちの協力を得る手間を惜しんではならない。
(ここでは架空ケースを前提に話を進める。)

基本手順

 コンプライアンス研修で使用されるケースは、比較的短いものが多い。そのため、無計画に文章を作成し、「なんとなくケース風に作ってみました」というような例も多い。望ましい作成手順は以下の通り。

  1. テーマの選定(何を気づかせたいのか)
  2. 情報の収集(現実味のある場面設定のヒント)
  3. シナリオの作成(リスクとジレンマの組み込み)
  4. ケースの文章化(学習を深める工夫)
  5. 整合性の確認(現実にはあり得ない設定の排除)
  6. 検討指導と解説の準備(教材としての仕上げ)

テーマの選定

 ケースでは業務行動におけるリスクとジレンマを取り扱うため、「受講者はどのような場面で迷うのか」あるいは「会社として、どのような場面で正しい判断をしてほしいのか」という問題意識の確認から検討を開始する。扱う法律や制度の種類は、シナリオ検討の過程で絞られてくるため、この段階では必ずしも強く意識する必要はない。

情報の収集

 現実にはあり得ないような場面設定では、受講者は「講師は現場の実態が分かっていない」と感じてしまい白けてしまうであろう。「そうそう」「あるんだよなあ」と思わせる場面設定が重要だが、そのためには現場に出向いて情報収集を行う必要がある。

シナリオの作成

 シナリオの出来栄えは、学習効果を左右する最大の要素である。単純な違反行為を描くだけでは、「違反をしてはいけない」という見え透いた結論しか得られないが、そこに「違反をせざるを得ない事情(リスクとジレンマ)」や、「ルールに関する理解不足」などの要素を加味することで、「きれいごと」で片づけられない状況が生まれる。これらの要素を考慮に入れてもなお、正しい行為を選択できるのかどうか、本音で議論できるようなシナリオを作成しなければならない。

ケースの文章化

 意外に重要なのが文章表現である。登場人物の発言や修飾語の選択、些細な状況説明の有無などで、議論の展開が大きく変わることが珍しくない。限られた情報量(文字数)の中で、意図した学習効果が得られるよう、文章の推敲を重ね、表現を練り上げていかなければならない。

整合性の確認

 場面設定の段階で現場での情報収集は行っているが、完成した文章を現場の人に読んでもらうことも重要である。現場で行われる作業手順の理解不足や専門用語の用法ミスなど、ケースの完成度を落としかねない要素を徹底的に排除すること。

検討指導と解説の準備

 通常、ケースを作成しながら、「どのような討議指導を行うべきか」「どのような解説で締めくくるべきか」を考えることが多いが、これらの情報もケースの完成後にきちんと文書化しておく必要がある。

<5 Check Points>

  1. いきなり文章を書き始めない。ケース作成には基本手順がある。
  2. 題材の選定と情報収集により、議論に耐えうる場面を設定する。
  3. 巧妙にリスクとジレンマを組み込んだシナリオを作成すること。
  4. 微妙な言い回しに注意し、意図せぬ議論展開を防止すること。
  5. 最後に現場関係者にチェックしてもらい、完成度を高めること。