場面設定の適否は受講者の参加意欲を大きく左右するため、可能な限り想定受講者に適合したものでなければならない。その上で、わが社として対応が急がれるリスクについて議論できる事件・事故を取り上げる。
場面設定の適否は受講者の参加意欲を大きく左右するため、可能な限り想定受講者に適合したものでなければならない。その上で、わが社として対応が急がれるリスクについて議論できる事件・事故を取り上げる。
ケースに取り組む受講者は、「これはまさに自分の職場の問題だ」と感じることで、ケースに対して感情移入ができるようになる。営業スタッフに「機械操作での労災事故」を描いたケースを与えても、他人事として捉えてしまうであろう。ところが同じシナリオで「移動中の路上での事故」という設定にすれば、議論の活性度が全く変わってくるのである。ケースを作る側にしてみれば、「些細な違いはどうでも良いではないか」と考えたくなるが、学習効果を考えれば疎かにできないのが場面設定である。
支店・営業所に所属する人材は販売スタッフが中心で、顧客との接点を形成する重要な役割を担う。そのため、不適切な顧客対応や販売・仕入にまつわる不正の発生可能性が高い。これらの職場は、本社の監視の目が行き届き難いばかりでなく、上司の監督下を離れて行われる業務が多いため、周囲が気づかないところで問題が進行している可能性が高い。また小規模な事業所も多く、管理スタッフの絶対数が少ないため、一般に内部統制機能が弱い傾向がある。ケースの場面設定としては、クレーム処理の失敗や不適切な個人情報の取り扱い、委託先への不当要求、あるいは勤務中の私的行為など、統制機能の弱さが原因の事件・事故が多く取り上げられる。逆に、支社(統括支店)規模になれば、本社に準じた人数のスタッフが配置されることが多いため、本社に類似した問題が発生する可能性が出て来る。
ある程度以上の規模の工場では、本社に近い規模の管理スタッフが配置されていることが多いため、小規模な営業所とは比べれば、一般的な内部統制面での管理不全は起きにくいと思われる。逆に小規模な作業現場では、営業拠点に類似する問題が発生しやすい。製造の現場であるため、労災事故や製品事故は多くなる傾向があるが、忘れてはならないのが、工場は1つの独立した文化圏を形成していることも多いことである。隔離された環境下で、昔ながらの徒弟制度的な人事や地域固有の人間関係が息づいていることがあり、その工場固有の風土に起因する事件が生じやすいのも特徴である。ケースの場面設定では、労災や品質事故以外に、現代の感覚では厳しすぎる部下指導、時代錯誤の男尊女卑的な発想、地域活動への貢献強制、その他の独特なローカルルールの問題が取り上げられることも多い。研究開発機能を併設している工場では、知的財産や営業秘密の取り扱いの問題も多く取り上げられる。
本社や一定以上の規模を持つ支社では、限られた人数のスタッフが多様な業務機能を担っているため、彼らを対象とした研修では、全ての受講者に「自分の問題」として感じてもらえるような場面設定は難しい。そのため、本社に共通する問題を取り上げる必要がある。たとえば、本社スタッフは企画・管理業務を担うため、業務名を特定せずに企画・管理部門で起こりやすい事件を取り上げる方が望ましい。また、様々な企画・改善プロジェクトの事務局を担うことが多いため、プロジェクトを舞台にした事件は比較的なじみやすい傾向がある。ケースの場面設定としては、ハラスメントや限界を超えた業務量などの労務管理の問題、インサイダー取引などを含む機密情報の取り扱い、縦割り組織の弊害としての無責任体質、あるいは官公庁や社会全般との関係にまつわる問題も多く取り上げられる。
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