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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(ケース指導編)

10.シナリオ展開

 シナリオはケース本文の骨格であり、構成がしっかりしていなければ、どれほど多くの文章を書いても、何も伝わらないという結果に終わりかねない。シナリオは基本の3部構成を原則とし、必要に応じて崩しながら、テーマと学習目標に応じた展開方法を検討する必要がある。

シナリオの基本構成

 コンプライアンス研修のケースでは、シナリオ展開に一定の基本スタイルが存在する。まず、導入部で主人公とその職場環境の紹介を行い、受講者に事件の場面設定を理解させる。次に、そこで生じた事件の詳細説明を行う展開部が続く。最後に、事件の顛末を述べて、受講者に問題原因や事件処理の適否について考えさせるという3部構成である。現実のケースでは、この基本構成がそのまま踏襲されることもあるが、上手に崩すことで選んだテーマや学習目標に最適なシナリオ展開を検討することも多い。

導入部

 ここで重要なことは、受講者が誤解なく場面(主人公のおかれた状況)をイメージできることである。文学作品ではないので、文芸的な表現は必要ない。むしろ、国語のテストのように、読解力の高い人にしか理解できないような微妙な表現は禁物である。登場人物の描写については、パワハラ問題を扱うケースのように性格描写が重要になる場合を除き、人物そのものの描写より、どのような立場(職位、役割、経験など)で、どのような状況におかれているのかを伝えることが重要である。

展開部

 ここでは、事件の詳細を筋道立てて描くことが重要である。誰が、どのような場面(時間的、空間的)で、どのような動機により、どのような行為に及んだのか、そして結果はどうなったのか、という重要事項を漏れなく伝える必要がある。とくに、主人公の判断にリスクとジレンマが付きまとう場合には、その内容とともに、主人公がどのように苦悩しているのかが理解できるような表現が必要である。複雑なケースでは、複数の場面にわたって描写が続くことがあるが、そのようなケースでは場面の切り替わりが分かりにくくなることが多いので、受講者がシナリオの流れを追いかけられるように、文章でガイドしなければならない。ただし、ケース本文の不完全さを講師による補足説明で補おうとしてはならない。ケース本文だけで、受講者が必要とする全ての情報が読み取れるようにすべきである。

課題提起部

 事件の描写が終わったあとは、受講者への問題提起に移る。ここでいう問題提起とは、受講者に「あれ、おかしいぞ」「このままじゃまずいぞ」と感じさせることであり、試験問題のように明確な問いかけを行うことではない。たとえば、「主人公は問題事象を発見したが、そのまま放置してしまった。」「問題を報告したが、上司が握りつぶしてしまった。」「強引な問題処理が行われてしまった。」などのような不適切な形でシナリオを終了させる形が多い。

描写の視点

 文章表現にあたっては、客観的な事実説明として描くのか、受講者を当事者として主観的に描くのかという選択肢が存在する。前者では「A課長は…」というような表現になるが、受講者は主人公の判断や行動を客観的に観察し、その問題点を分析していくことになる。後者では「あなたの部下のAさんは…」というような表現になり、受講者は「Aさん」の上司になりきってケースを理解し、自分の立場で何が正しいのかを検討することになる。いずれの方式でもかまわないが、前者はより手続き面での問題描写に用いやすく、後者はより心理描写が重要なテーマに用いやすいと言える。

<5 Check Points>

  1. シナリオは、導入・展開・問題提起の3部構成を基本とする。
  2. 導入部では、受講者が場面設定を正確に理解できるように心がける。
  3. 展開部では、受講者に事件の詳細を誤解なく伝えることを重視する。
  4. 問題提起部では、受講者に自分の問題として考えることを促す。
  5. 文章表現の技法としては、客観的視点と主観的視点の2つがあり、目的に応じて使い分ける。