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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(ケース指導編)

11.検討のスタイル

 ケースメソッドの進め方には基本手順(個人検討、グループ検討、全体検討)がある。コンプライアンス研修では、グループ検討を重視し、全体検討に代えて発表・講評が採用されることが多い。それだけに、グループ検討の成否が重要になる。

検討の基本手順

 ケースメソッドでは、原則として個人検討、グループ検討、全体検討という流れを踏むことが多い。コンプライアンス研修では、最後の全体検討を発表・講評という形に置き換えることが多い。どちらを採用するかは、研修の開催目的と受講者の状況による。

個人検討

 個人検討とは文字通り個人単位でケースの分析を行い、自分なりの結論を出すことである。このステップを踏むことで次のグループ検討が円滑になる。MBAコースでは個人検討は宿題として課され、宿題への取り組み度合いによりグループ検討への参画度合いが大きく異なってくる。しかし、コンプライアンス研修で用いられるケースは比較的短いものが多いため、個人検討の時間は文章を目で追いかけ、自分なりに問題個所を発見し、チェックする程度のものになることが多いと思われる。

グループ検討

 コンプライアンス研修のケース検討で最も重要になるステップである。グループの中で自分の考えを開示し、他者の意見を確認する。その過程で自分の意見の正しさや誤り、他者の感覚との乖離や一致度合いなどが確認できる。ケースメソッドでは唯一絶対の正解は存在しないことが多いが、自分の考えが他者にどのように映るのかを確認することで、自分を客観視できるようになる。グループ検討では、グループ内でファシリテーションが行われ、議論が深まっていく。

グループの自治組織

 コンプライアンス研修ではグループ検討が重要になるが、それだけにグループ運営の失敗はそのまま研修の失敗につながりかねない。講師は討議のガイダンスをしっかり行うだけでなく、グループ内の自治組織も構築させなければならない。まずはグループリーダーの選出を求める。リーダーは公平な視点で話し合いをリードできなければならない。また、リーダーがファシリテーションに慣れていない場合は、書記役はリーダー以外の人が担当した方が良い。リーダーが記録係になってしまうことも多いからである。

全体検討か、発表・講評か

 MBAの企業戦略のケースメソッドなどでは、グループ検討後の全体検討が山場となる。グループ検討で得られた気づきを全体に投げかけ、講師はそれを上手に交通整理(ファシリテート)して、さらなる相互啓発を促すために、約90分の授業の大半を全体検討が占めることになる。ところが、一般的なコンプライアンス研修の場合、全体討議に代えてグループ発表と講師による講評が行われることが多い。研修に割ける時間の制約が最も大きな理由だが、自由な発想を重んじるMBAの授業と異なり、コンプライアンス研修では一定の落とし所(望ましい結論)が存在することが多いため、全体討議で議論を紛糾させたくないという主催者側の事情もあるだろう。そのため、全体検討は新人研修などのように主催者側のコントロールが効きやすい研修で採用されることが多いと思われる。加えて、後の項で述べるように、コンプライアンス研修固有の難しさも影響していると思われる。

<5 Check Points>

  1. ケースメソッドは基本手順に沿って運営する。
  2. コンプライアンス研修では個人検討の比重は高くない。
  3. グループ検討こそコンプライアンス研修の山場であり、この成否が研修の成否につながる。
  4. 全体検討は自由な意見交換が歓迎される研修で用いる。
  5. コンプライアンス研修では、全体討議に代えて、発表・講評を採用することが多い。