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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(ケース指導編)

15.解説と参考資料

 ケースメソッドでは、「正解」が存在しないことが多い。しかしコンプライアンス研修では、会社として受講者に理解してもらいたい事項が存在するため、解説は必要である。但し、知識学習ではないため、解説のボリュームは抑え目に設定する必要がある。

ケース解説の目的

 ケースメソッドを終えた後は、振り返りを行うことが多い。ケースメソッドの実施目的は、検討過程で様々な気づきを得ることにある。現実の業務の中ではまれにしか出会わない場面を、ケースを通じて疑似体験することで、実践的な学習を行うことが目的である。とくにコンプライアンス研修では、実際の不祥事の場面を経験することは絶対に避けなければならないため、ケースを通じた疑似体験が重要になる。ケース解説では、「何を学んでもらいたかったのか」という点の再確認が中心となる。

考え方と模範解答

 ケースメソッドの目的が「現実」の疑似体験である以上、唯一絶対の「正解」は存在しないはずである。しかしコンプライアンス研修では、受講者に身につけてもらいたい考え方や知識などが存在する。とくに「考え方(判断基準)」は、自社の価値観伝達であることが多く、コンプライアンス研修では必須の伝達事項である。その意味で、模範解答は不要だが、「このケースのような場面で期待される考え方」を解説することは必要だという結論になる。なお、「解答例」という形で講師が作成した資料を用意することもあるが、配布に際しては「模範解答ではない」という念押しを忘れずに行いたい。そうしておかなければ、「これが正しい答だ」という勘違いが生じ、せっかくの「考える学習」を台無しにしかねない。

関係法令の解説

 我が国では、コンプライアンスは法令遵守に限定される概念ではないという理解が一般的であるが、違法行為が重大なコンプライアンス違反であることは自明である。知らないルールは守りようがない。その意味で、法令学習は今後もコンプライアンス研修の重要な要素でありつづけるだろう。ケースの解説においても、関係する法令知識の提供は必要である。ケース検討を通じて問題意識が高まっている状況は法令学習の好機でもあるため、この機会に法令学習を実施したい。

関連情報の提供

 既に述べたように、コンプライアンス研修のケースは架空事例であることが多い。しかし架空事例を作成する際には、実際に起きた事件をヒントにしていることが多いため、ヒントとなった現実の事件を紹介できれば、臨場感を持ってケースを振り返ることができるはずである。また、ケースで取り上げた事象以外に、現実に起こり得る事例を紹介することも学習を深める上で有効である。

解説のボリューム

 ケースメソッドは気づきのための「考える学習」である。解説のボリュームが過大になると、知識学習に逆戻りした印象を与えてしまい、返って学習効果が低下する恐れがある。解説は適度な分量に抑えることが肝心である。どの程度の時間が適切かは一概には言えないが、ケース学習全体の半分を超えない範囲が妥当ではないかと思われる。

<5 Check Points>

  1. ケースの解説では、身につけてもらいたい考え方を伝える。
  2. 模範解答は配らない。解答例はあくまでも「一例」である。
  3. 問題意識が高まっているこの瞬間をねらって法令学習を行う。
  4. 参考事例の紹介は有効である。
  5. 知識学習ではないので、解説のボリュームは抑え目にする。