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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(ケース指導編)

16.ケースの改善

 ケースは書き上げただけでは未完成品である。使い込んで、磨き上げて、よりよい形に改善し、完成度を高めていかなければならない。磨き上げられたケースを豊富に蓄積していけば、コンプライアンス研修は質・量ともに充実していくであろう。

改善の重要性

 ケースは完成後も成長を続ける。むしろ、「文章」としてのケースシートの完成は、人間に例えれば出産のようなものだと考えるべきである。実際の研修で使われ、様々な問題点(使い難さなど)が発見され、その問題を解決していくことでケースの完成度が上がっていく。ケースは使い込まれてその価値を向上させるのである。逆に初めて使われるケースには、様々な問題(不備)が隠れていると考え、用心しなければならない。

文章の改善

 ケースを使用してみて、まず気付くのが文章の不具合である。とくに状況描写や心情描写の言葉は、受講者が作成者の意図どおりに受け取ってくれるとは限らない。強すぎる修飾語や断定的な表現により、受講者の思考を制限してしまうこともある。これらの問題点は、グループ検討の様子を注意深く観察して、早期に発見して修正したい。誤字や変換ミスも同様である。

場面設定の改善

 場面設定に関する改善ポイントは、問題点というより前向きな改善アイデアとして発見されることが多い。グループ検討の中で、受講者が自己の経験や考えを述べている中に、「なるほど、こういう設定にすれば、より悩ましい場面が構成できる」と感じられる発言が多くみられる。議論を深め、学習効果を向上させるために有効なアイデアは、積極的にとり入れたい。

ファシリテーションの改善

 ファシリテーションの改善ポイントとしては、とくにグループ検討のためのガイダンスに関するものが多い。グループ検討を観察していて、本質から外れたことで受講者が迷ってしまった場面があれば、予めその回避のための指示を行うべきである。よくある例として、対策立案を検討していて「誰の立場で検討すれば良いのだろうか?」と迷い、議論が収束できないような混乱があげられる。これを回避するためには、「主人公の上司の立場で検討してみてください。」という具合に、事前に伝えておけば良い。

解説の改善

 解説内容は、学習目標に合わせて事前に準備するものであるが、受講者の検討結果をみると、過不足に気づくことも多い。「これくらいは知っているだろう」と思っていた知識が欠落していたり、「これは知らないだろう」と思っていた知識が既に学習済みだったりということがある。また、検討内容に極端な偏り(例:特定の法令違反にのみ関心を持つ)がある場合には、視点のバランスを回復させるために、他の重要な論点を解説する資料を用意する必要があるだろう。

ケースライブラリの構築

 このように改善を重ねていくことで、次第にケースは磨かれていく。ケースが手に馴染んでくることで、講師は指導に自信を深めることができ、研修の品質も向上していくであろう。また、たとえば管理職研修用に作成されたケースを、場面や主人公の設定を変えることで、中堅社員や新入社員向けのケースに書き換えることもできる。このようにしてケースをライブラリ化して蓄積することで、コンプライアンス教材が充実していくのである。蓄積されたケースは貴重な財産となる。

<5 Check Points>

  1. 文章の改善では、受講者の言葉に対する反応を観察する。
  2. 設定の改善では、グループ検討での発言からアイデアを得る。
  3. ファシリテーションは、事前のガイダンスの改善が重要である。
  4. 解説については、受講者の検討結果を参考に改善を行う。
  5. ケースは使い込んで磨き上げる。蓄積されたケースライブラリは、コンプライアンス講師にとって貴重な財産となる。