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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(ケース指導編)

参考1 マネジメント課題を扱ったケース

 不祥事の続く社会情勢を受け、A課長の勤務先もこれまでの利益偏重の経営方針から、「社会的責任を果たした上での健全な利益確保」を目指すコンプライアンス経営に移行してきた。とはいえ、依然として数値目標は残るわけで、A課長も新たな経営方針への対応に戸惑いをかくせない。
 A課長の部下のBさんの話である。Bさんは、若手としては実力のある方だが、少々軽率な一面も持っており、成果のためには多少の手抜きや些細な契約トラブルは許されると勘違いしている様子である。
 昨年の夏、Bさんの担当する小規模案件で契約の成立を急ぐあまり、条件の詰めにあいまいな部分を残してしまい、その後の進行過程で、トラブルを起こしてしまった。Bさんの煮え切らない対応に痺れを切らしたお客様からA課長のところに直接苦情があった。これ以上不誠実な対応を続ければ、訴訟問題にもなりかねない状況だったため、A課長が直接対応してなんとか事態を収拾した。その後B君を呼んで注意を与えたのだが、周囲の話では最近になっても彼は危なっかしい仕事を続けているようなのだ。
 そんななか、結果としてBさんは今年度も目標を達成したのだが、本人の将来と会社のリスクを考え、A課長はBさんの人事評価を一段落とした。ところがBさんはこの評価に対して猛烈に反発した。その言い分は、「以前、X部門のCさんは、○○違反を行なって成績を上げ、高く評価されたそうじゃないですか。私は違反行為などしていないのに、なぜ自分だけ評価を下げられなければならないんですか?」というものだった。
 この一件については、かつて全社的に問題となったのだが、「優秀なCさんに限ってそのようなことは・・・」と放置されていた。しかし、騒ぎが大きくなったために会社もそのままにはできず調査した結果、違反行為はなかったことが判明した。Cさんに対するやっかみの気持ちから、誰かが中傷したものだったらしい。A課長は部門内会議できちんと否定したつもりだったが、Bさんら若手はこのことを本気で信じているようだ。


Teaching Notes(抄)

【問題点列挙】

このケースは、部長職を対象に、コンプライアンス経営を妨げる部下(課長職)のマネジメント行動の問題点を検討させるものである。ここでは、A課長のマネジメントの不具合を中心に取り上げるようにする。とくに全社方針を理解しきれていないことと、部下の行動管理が不十分な点を重視すること。併せて、Bさんら部下たちの問題行動も列挙しておく。

【原因分析】

人事評価でのマイナス評価に対してBさんが納得していない理由として、日常業務での指導が不十分な状況で、結果だけをみてマイナス評価を行っている点を問題として気づかせたい。後半のCさんの事件について、会議で発信したA課長のメッセージが部下の耳には正確に届いていない点も、伝達方法に問題があるのではないかという点を指摘しておく。

【リスク評価】

A課長のマネジメントが正常に機能していないことは、ここで生じている現象から読み取れるが、その中で、メッセージの正確な伝達ができていないことに起因するリスクに注目する必要がある。これは、コンプライアンス関連の方針伝達なども不徹底になる可能性を示唆しており、このことが原因で様々なコンプライアンス問題を生じさせる恐れがある点を忘れずに指摘すること。

【対策立案】

Bさんの行動矯正を論ずる前に、A課長本人のマネジメント行動の改善を求めたい。A課長のマネジメントがこのままの状態で放置されてしまえば、部下の行動矯正も実質的に不可能だからである。まずはA課長自身が行動改善に努めるべきである。しかし、自己啓発だけに頼るわけにはいかないため、部長として、部下の管理職のマネジメント能力、とりわけ部下指導などのマネジメントコミュニケーション能力の向上に向けた教育に取り組む必要がある点を申し添えておきたい。