不祥事の続く社会情勢を受け、A課長の勤務先もこれまでの利益偏重の経営方針から、「社会的責任を果たした上での健全な利益確保」を目指すコンプライアンス経営に移行してきた。とはいえ、依然として数値目標は残るわけで、A課長も新たな経営方針への対応に戸惑いをかくせない。
A課長の部下のBさんの話である。Bさんは、若手としては実力のある方だが、少々軽率な一面も持っており、成果のためには多少の手抜きや些細な契約トラブルは許されると勘違いしている様子である。
昨年の夏、Bさんの担当する小規模案件で契約の成立を急ぐあまり、条件の詰めにあいまいな部分を残してしまい、その後の進行過程で、トラブルを起こしてしまった。Bさんの煮え切らない対応に痺れを切らしたお客様からA課長のところに直接苦情があった。これ以上不誠実な対応を続ければ、訴訟問題にもなりかねない状況だったため、A課長が直接対応してなんとか事態を収拾した。その後B君を呼んで注意を与えたのだが、周囲の話では最近になっても彼は危なっかしい仕事を続けているようなのだ。
そんななか、結果としてBさんは今年度も目標を達成したのだが、本人の将来と会社のリスクを考え、A課長はBさんの人事評価を一段落とした。ところがBさんはこの評価に対して猛烈に反発した。その言い分は、「以前、X部門のCさんは、○○違反を行なって成績を上げ、高く評価されたそうじゃないですか。私は違反行為などしていないのに、なぜ自分だけ評価を下げられなければならないんですか?」というものだった。
この一件については、かつて全社的に問題となったのだが、「優秀なCさんに限ってそのようなことは・・・」と放置されていた。しかし、騒ぎが大きくなったために会社もそのままにはできず調査した結果、違反行為はなかったことが判明した。Cさんに対するやっかみの気持ちから、誰かが中傷したものだったらしい。A課長は部門内会議できちんと否定したつもりだったが、Bさんら若手はこのことを本気で信じているようだ。