コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(ケース指導編)
参考2 倫理観醸成のためのケース
あなたの配属された部署では、お客様のオフィスを訪ねることが多く、近距離の電車やバスを利用することが多い。かかった費用は毎月会社に請求するのだが、記録をこまめにとっておかなければ、つい記憶が曖昧になりがちなので、手帳は手放せない。
先日、OJTを兼ねて、先輩に同行してあるお客様を訪問した。ここへは電車とバスのどちらでもいけるのだが、バスだと200円、電車なら150円である。先輩いわく、「電車で行こう。バスは時間が読めないからな。でも会社にはバスで行ったことにしておけよ。自分もそうするから。」とのことであった。
あなたとしては、こんな情けない話で会社にウソをつくのはいやなのだが、先輩に逆らうと後で厄介なことになりそうな気がする。やむを得ず、手帳にはバス代を記入し、先輩と口裏合わせをしてしまった。
Teaching Notes(抄)
【問題点列挙】
このケースは、新入社員を対象に、イメージしやすく、業務で類似の場面に出会う可能性もある「悩ましい状況」を取り上げたものである。問題点としては「先輩のルール違反」とそれに流された「自分のルール違反」の両方をとり上げる必要がある。
【原因分析】
新入社員に徹底させたいのは、会社の中には、上司や同僚から見えないところで、ごまかそうと思えばごまかせる「小さな誘惑」が数多く存在するということである。わざわざ具体的に教える必要はないが、きちんと管理されているはずの業務の中にも、ごまかしの余地はあり、その中の重大なものが企業不祥事としてマスコミをにぎわす結果となることを知らしめる必要がある。また、小さな違反行為が見逃されつづけることで、それに慣れてしまい、「違反をしてはいけない」と思う心の歯止めが効かなくなり、より大きな事件に巻き込まれる危険性も高いことを併せて伝える。
【リスク評価】
このケースの問題は金額的には些細なものであるが、立派な詐欺罪であり、個人としては刑事告訴され、逮捕される可能性もゼロではない。しかし、会社にとっては金額面が重大なのではなく、不正な報告を行ったことの方が問題だという点を強調したい。上司や経営陣の意思決定は、現場から上がってくる情報に依拠しており、虚偽の報告が行われるような状況では、正しい意思決定は不可能となり、経営に重大な影響を与えるというところまで考えさせたい。
【対策立案】
解答としては「正しい報告を行う」という以外はあり得ないが、どのようにして正しい報告を行うかを考えさせる。その結果として、自分が被るかもしれない不利益(先輩との不和など)についても、「それをどのように理解すべきか」という点まで踏み込んで話し合わせる必要がある。