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新任コンプライアンスリーダーの手引き

2.コンプライアンスの深い理解

 すでに分かったつもりになりがちなコンプライアンスの意味ですが、CLとして周囲を納得させ協力を得るためには、一般社員よりも深い理解が求められます。類似概念や相反する概念との対比を行うことで、コンプライアンスに関する理解を深めておきましょう。

コンプライアンスとは

 コンプライアンスの定義については、これまでも様々な形で耳にし、理解してきたと思います。しかし、CLに任命されたからには、一般の社員よりも高いレベルでの理解が求められます。以下、異なる視点からコンプライアンス概念を整理します。

法令遵守(順守)とコンプライアンス

 コンプライアンスが単なる法令遵守を意味する概念ではないことは、すでに十分理解されているものと思います。しかし、法令遵守の重要性はCLとして決して忘れてはなりません。コンプライアンス研修などで「コンプライアンスは法令遵守ではない。」という意味のメッセージが多用されるのは、「法律さえ守っていれば良いのだ」という誤った行動選択を回避するためです。会社や社員が法令違反を行えば、社会からは「コンプライアンス意識の低い企業」というレッテルを張られます。たとえ裁判で違法性が否定されたとしても、係争過程で自社のブランドイメージは大きく傷つき、企業価値の低下を招きます。法令遵守はコンプライアンスの絶対的な必要条件なのです。

CSRとコンプライアンス

 コンプライアンスと並んでCSR(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)への関心が高まっています。CSRとは、企業が利益追求に偏らず、広く社会の期待に応えた経営を志向することを意味します。「ルールを遵守すること」という狭義の解釈に基づけば、コンプライアンスはCSRの下位の概念として理解することができますし、「社会の期待に応える経営」という広義にとらえれば、コンプライアンスとCSRは互いに類義語であるともいえます。

リスクマネジメントとコンプライアンス

 コンプライアンス経営の実践においてはリスク対策が重要な施策となります。コンプライアンス経営の第一関門である不祥事予防のためには、コンプライアンス・リスクを把握し、適切なリスク対策を施す必要があるためです。その意味で、リスクマネジメントはコンプライアンスの実現ツールの1つとして理解することができます。

利益とコンプライアンス

 最後に、「利益とコンプライアンスはどちらが重要なのですか?」という重要かつ素朴な質問への正しい解答方法を考えてみます。CLとして最も避けたい解答は、「バランスが大切です。」というものです。たしかにバランスは重要ですが、これでは質問者の疑問に対する解答になっていません。ではどのように答えればよいのでしょうか。まず、相手の社会人としての成熟度を評価してください。新入社員や若手社員など、成熟度が低いと判断される相手に対しては、「コンプライアンスが全てのベースであり、コンプライアンスは利益に優先する。」という意味の説明が安全です。しかし、相手の成熟度が高く、十分な理解力が期待される場合には、このような解答では納得が得にくいでしょう。その場合には、「利益の実現なしに企業の存続はあり得ない以上、利益の最大化が当社の最優先課題です。しかし、この場合の利益とは長期的利益であることを忘れないでください。長期的な利益の最大化を妨げるような目先の利益は追わないというのがコンプライアンスです。」という意味の解答が適しているのではないでしょうか。

<活動指針>

  • CLとして、コンプライアンス概念を、深く、多角的に理解すること。
  • 法令遵守は目的ではないが、コンプライアンスの必要条件である。
  • コンプライアンスとCSRは同じ方向を向いた異なる概念である。
  • リスクマネジメントはコンプライアンスの重要ツールである。
  • 利益とコンプライアンスの関係を問われたら、相手の成熟度に応じた説明方法を選択すること。