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新任コンプライアンスリーダーの手引き

10.基本的な法律知識

法令違反は重大なコンプライアンス問題です。法律家ではないCLに法的な判断を期待することはありませんが、法律に関わる疑問を感じた場合には、速やかに専門部署に相談するようにしましょう。基礎的な法律知識を身につけることは好ましいのですが、それのみに頼って判断を下すのは危険です。

CLと法令知識

 コンプライアンスとは法令遵守のみを意味するものではありませんが、法令違反は重大なコンプライアンス問題です。CLの役割の中で、法令違反の予防は最も重要なものの1つです。知らないルールは守れません。ましてや他者に守るよう指導することは不可能です。CLの役割を全うするためには、法律の知識は欠かせません。しかしプロの法律家でもないCLに法令に関する深い知識を求めることは現実的ではありません。CLとしては、自部門の業務に関連する法令の範囲と基本的な規制内容を理解するとともに、困ったときに誰に相談すればよいかを理解しておくとよいでしょう。

労働に関する法令

 昨今のコンプライアンス問題の中では、労働法に関わる事例が増大しています。労働法とは労働基準法、均等法、労働契約法などのように、労働者の権利を守るための法令と、職業安定法や派遣法などのように労働市場に関わる規制を定めた法律が代表的です。その他に、労働組合法などのような集団的労働関係を規定した法律もあります。労働法は法令数が膨大であるだけでなく、様々な判例や行政判断の先例など、適用にあたっては深い知識と理解が求められます。労働法の入門書の一読をお勧めしますが、判断に際しては必ず人事部門などに相談してください。

取引に関する法令

 取引に関わる法令としては民法と商法が代表的です。とくに民法は私人間(企業間を含む)の債権・債務や、所有権などの物権に関する根本規定です。しかし、ビジネス上の取引はこれらの法令だけではカバーしきれず、独占禁止法や下請法などの経済法、その他の業法と呼ばれる業界固有の法令による規制を受けます。これらの法令に関しては、法務部門に相談することになります。契約書の起案などでは、面倒だからと法務チェックを迂回するような行為は絶対に認めてはなりません。

情報管理に関する法令

 ネット社会の進展にともない、情報セキュリティに対する関心が高まっています。とくにSNSなどのソーシャルメディアを社員が個人的に活用することが一般化してくると、従来とは異なる情報倫理教育が必要になってきています。CLとしては、情報の取り扱いに関する教育に協力するとともに、個人情報保護法や不正競争防止法などの情報管理に関する法令についても基本を理解する必要があります。情報セキュリティについてはIT部門に相談するのが基本ですが、法律についてはIT部門では扱えない恐れがありますので、法務部門にも相談するようにしてください。なお、情報漏洩原因の大半は紙媒体であることも知っておいて下さい。書類の管理など、伝統的な情報管理も決しておろそかにはできません。

知的財産に関する法令

 経営資源としての知的財産の重要性が高まっています。特許や商標のような産業財産権はもとより、著作権についても企業・個人を問わず、様々な形で権利の主張が広まっています。とくに著作権は、産業財産権とは異なり、権利内容やそれが及ぶ範囲の解釈にグレーゾーンが大きい点で、リスクとしても重視しなければならない権利です。「この程度なら大丈夫だろう」という甘い判断を避け、迷ったら法務部門などに相談するようにしてください。

<活動指針>

  • CLは、各法令の基本理念を理解し、頼れる相談者を見つけること。
  • 労働法に関わる判断では人事部門に相談する。
  • 取引に関わる判断では法務部門に相談する。
  • 情報セキュリティの技術的な相談はIT部門、法的な判断は法務部門に相談する。
  • 知的財産に関する判断では、甘く考えず法務部門に相談する。