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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(入門編)

4.講師業務の全体像

 講師業務とは、教材を作って講義をすることだけではない。講師は研修の成功に責任を負う立場である。どのような研修を実施するのか(企画)、自分で担当した研修の効果をどのような手段で図るのかという検討にも参画しなければならない。また、研修目的に適合した会場運営のありかたについても、自分なりの意見をもつべきである。

研修の企画

 研修の企画とは、背後にある経営課題(コンプライアンス課題)を達成するために、どのような研修を実施すべきかを検討することである。その際、受講者特性に配慮して、どのような知識・技能を伝達し、どのような気づきを実現するのか、学習目標を設定する。研修には予算や時間などの制約条件が存在するため、学習目標を1回の研修で達成できるとは限らない。複数回の研修実施や研修以外の手段を用いて実現しなければならないものもあるかもしれない。研修の成否は企画の適切さで決まるといってよい。いかなる名講義も企画のまずさを補うことはできないのである。

教材の作成

 研修で配布する資料の作成では、伝えたい情報が確実に相手に伝わることが重要である。分量の適切さ、表現の分かりやすさと正確さに加え、配布のためのコストや機密保持にも留意しなければならない。また、コンプライアンス研修に限らないが、著作権侵害には十分に注意しなければならない。

講義の実施

 研修実施は当日の講義だけだと思ってはならない。実際の講義での時間配分に沿ったリハーサルなども講義実施の一部であると考えるべきである。リハーサルで最適な時間配分を把握し、表現の不適切さやシナリオのまずさを発見し、万全の準備で講義に臨みたい。しかし、いかに周到な準備を行っても当日の講義においては何が起きるかわからない。講師の技量が問われるのはこのような場面での対処である。冷静に状況を見極め、その場限りの対応ではなく、今後のコンプライアンス推進に配慮した対応が求められる。

研修の評価

 最も一般的な評価方法は研修終了時のアンケートである。しかし、研修の評価はアンケートだけでできるとは限らない。むしろ、アンケートは講義の満足度調査に過ぎないと考えるべきである。研修効果で最も重要なのは、コンプライアンスの浸透度合いである。具体的には「何が正しいのかが理解されたか」「判断で大切にすべきことは何か」「危険の見極め方と対象方法」などが正しく伝わったかということであり、その結果、受講者の行動に望ましい変化が見られたかどうかということである。このような点を評価するためには、受講後、一定期間後のアンケート調査や、上司へのインタビューなど、多様な方法を組み合わせなければならないであろう。したがって、評価方法は研修企画の段階から練っておく必要がある。

研修の運営

 会場運営は純粋な講師業務とはいえないであろうが、良好な会場運営はスムーズな講義の前提となる。その意味で、講師も運営の基本をわきまえておく必要があるだろう。受講者に開催意図が正しく伝わるアナウンスを行い、受講者が迷わず定刻に会場に到着できるようにガイドすることや、会場内での注意事項の伝達、教材準備と配布のタイミング、例外事象への迅速な対応など、講師にとっても無関心ではいられない事項であろう。研修効果の測定を事後的に行う場合にも、運営の巧拙は成果を左右する。

<5 Check Points>

  1. 研修の成否は企画で決まる。企画の失敗を講義で補うことはできない。
  2. 教材の準備は量と質に配慮する。
  3. リハーサルで講義の最終確認、しかし例外事象は必ず起きる。
  4. 研修はやりっぱなしではなく、きちんと効果測定を行うこと。
  5. 運営については講師も参画して十分な対応を行うこと。