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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(入門編)

8.研修教材の作成

 研修の準備で最も時間がかかるのが教材作成である。人員の乏しいコンプライアンス部門にとって大きな課題の1つは教材作成の生産性をあげることである。情報共有や役割分担を工夫して、最小の工数で最大の成果を上げたい。また、なんでもいいから作ればよいというものではない。効果的な研修教材の在り方を、見た目(形式)と内容(実質)の両面から改善工夫しなければならない。そのためにはグラフィックデザインの初歩的な知識が役に立つ。

教材作成の難しさと対策

 教材作成者の最大の悩みは時間がないことであろう。ただでさえ慢性的な人員不足のコンプライアンス部門では、教材作成だけにまとまった時間を割くことは難しいのが現状である。それだけに、効率的な教材作成を心がけたい。まず、教材の共有を進めることである。そのためには、テンプレートを統一し、使いまわしが効く前提条件を作る必要がある。また、一度作成した教材を逐次洗練化させる努力を継続することである。内容が古くなったからといって、ゼロから再作成したのでは無駄が多すぎる。

望ましい教材とは

 望ましい教材の条件の第一は、学習者にとって、必要かつ十分な情報が、自習しやすい順序で盛り込まれていることである。不要な情報まで含んだ膨大な資料は使いにくいばかりでなく、正しい理解の妨げになる。正確な情報であることの大切さは言うまでもない。第二は、講師にとって扱いやすいものでなければならない。講義中にあっちに跳んで、こっちに戻って、ということでは学習の流れが阻害されるし、講義もやりにくい。自習しやすい項目の並びが、講義のしやすさと必ずしも一致しないのも悩ましいところである。このような条件を同時に満たす資料作成は容易ではない。そのため、体系的な解説資料をワープロなどできちんと作成し、講義でのレジュメとしてPPTのスライドでポイントを解説していくことが考えられる。このレジュメには解説資料の参照ページを明記しておく。

デザインの知識

 使いやすい教材は、見た目にも美しく感じるものである。美しい教材を作るには、グラフィックデザインの知識が役立つ。デザイナになるほどの知識は不要だが、PPTなどで1ページに盛り込む情報要素を7±2個の範囲に収める、グリッド線を活用して全体の構成を整える、などの初歩的な知識は持っておいても損にならないであろう。

PPTの功罪

 PPTを教材作成に活用すべきかどうかは賛否両論ある。賛成派はその生産性の高さを理由にするが、反対派はそもそもPPTが印刷ドキュメントの作成ツールとして不向きである点を指摘する。ともに一理あり、一概にどちらが正しいとは言い難いが、互いの主張に含まれる真理にも注目する必要があろう。すなわちPPT教材の生産性の良さを活かしながら、研修後の活用を考えて、最低限の業務用資料としてワープロなどで作成された説明的な文書も用意することが望ましいといえよう。

教材作成の留意点

 企業内で実施されるコンプライアンス研修では、新聞記事のコピーを配布される場面がよくある。新聞記事にも著作権がある。きちんと許諾を得ていれば問題ないのだが、無許可で使用しているケースはないだろうか。コンプライアンスの基本は法令遵守である。コンプライアンス研修の教材が法令違反では洒落にもならないであろう。

<5 Check Points>

  1. 教材作成では生産性の阻害要因の排除をこころがけること。
  2. 受講者にとっての使いやすい教材と、講師にとっての使いやすい教材は異なることがある。
  3. 初歩的なグラフィックデザインの知識は教材改善に役立つ。
  4. PPTはその利点と限界を理解して上手に使いこなすこと。
  5. 著作権法違反(複製権侵害)だけには注意すること。