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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(入門編)

9.講義の基本構成

 講座は1つのシステムである。システムの設計にあたってはコンパクトに見えるように構成することが成功の秘訣である。ここで紹介する三部構成を上手に活用することで、階層的にすっきりとした形で講座全体が見えてくるはずである。導入・本論・まとめを反復することで、学習効果を最大化したい。

三部構成が基本

 マネジメントにPDSサイクルがあるのと同じく、研修の構成にも三部構成で考えることが望ましい。最初は導入部で、学習に入っていく準備が行われる。次は本論で、主要な学習はここで行われる。最後はまとめ(総括)で、学習内容の振り返りと実務での活用方法、そして継続学習のガイダンスが行われることが多い。

導入部の内容

 導入部では、講師の自己紹介から始まるのが普通である。自己紹介は自己開示でもあり、「私は受講者の皆さんにオープンな気持ちで接していきます」という宣言の効果を持つ。それから講座の概要紹介が続く。講座の開催目的と学習目標、主な学習内容と大まかな時間配分、講座の運営方針と受講者へのお願い事項(基本態度、禁止事項など)といった、講座の進行に必要な様々な情報提供が行われる。講座の開始時点では、受講者も場の空気になじめておらず、緊張状態にあることが多い。このタイミングで受講者間の自己紹介や簡単なクイズやゲームを行うことで、場の空気を和らげ、学習効果を高める工夫が行われることもある。このような工夫をアイスブレイクと呼ぶこともある。

本論の展開

 本論は講座の主要部分であり、学習そのものである。ここでは講義・個人演習・グループ討議・ゲーム形式の体験学習など、様々な工夫が凝らされながら学習が進んでいく。この本論は、さらに複数のパートに分割されるが、その各パートも同様に、導入・本論・まとめという三部構成をとるべきである。さらに下位の分割が行われたときも同様である。このような三部構成が講座の基本構造となる。このような構造を保つことにより、学習の動機づけ・学習・理解度確認というサイクルを通じて、知識の確実な定着が望めるのである。

総括の重要性

 最後のまとめでは、講座全体の学習内容の振り返りを行う。この振り返りにより、ともするとバラバラに見えがちな個々の知識が体系的に整理され、受講者の記憶の定着化が促進される。またここでは今後の発展的な学習へのガイダンスが行われることもある。集合研修では確実な理解と気づきを促すことが重視されるため、そこで提供される知識量は控え目に抑えられることが多い。研修でしっかり基礎を固めた後は、幅広い知識学習が求められる。そのためのガイダンスである。さらに、研修によっては、研修で学んだ知識や技能を受講後の業務でどのように活用していくか、どのような課題に適用していくかを宣言させ、活用に向けての動機づけを行うこともある。

受講者は初めて

 ここまでの説明を読むと、「少しくどくなり過ぎるのでは?」と心配になるかもしれない。同じ講座を複数回担当した講師が陥りやすい罠の1つに、「受講者目線からの乖離」があげられる。講師は、入念な準備作業を行い、しかもそれを何度も繰り返し講義しているので、自分の頭の中では完全に整理された形で知識を蓄積している。その頭で考えると「くど過ぎる」と感じるかもしれない。しかし、ここで忘れてはならないことは、「受講者にとっては、今日が初めての学習である」という事実である。初めて聞く言葉、初めて接する概念は、少しくどいくらい丁寧に講義することが必要なのである。

<5 Check Points>

  1. 講座の基本構成は導入・本論・まとめの三部構成である。
  2. 導入部では学習促進の工夫と学習の阻害要因の排除を行うこと。
  3. 本論は階層化し、それぞれを三部構成にまとめること。
  4. まとめでは知識の定着化促進と次なる学習と活用を動機づけること。
  5. 常に「受講者は今日が初めて」を念頭に置くこと。