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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(入門編)

11.伝え方の工夫

 伝え方で大切なことは、分かりやすい表現である。コンプライアンス研修は有名人の講演会ではない。感動を与えることより確実な伝達の方を重視しなければならない。そのためには講師自身が深く理解しておく必要がある。そのうえで、平易な言葉、具体的な表現、誤解を生まない表現、そして受講者に合った伝え方を工夫することである。

自分自身の理解度

 コンプライアンス部門に異動して間もない頃は、コンプライアンスとは何かを知り、主要な法令を学び、リスクコントロールの考え方を理解するために多大な時間が費やされるだろう。しかも、それが自分の言葉で説明できるまでには道のりは遠いのが実情である。この程度の理解度で講義を行うと、書物に出てきた言葉がそのまま受講者に向けて発せられてしまうだろう。自分自身が十分に咀嚼できていない難しいことを、誰かに話して理解してもらうのは相当に困難である。まずは自分が納得できるまで理解することが第一歩である。

平易な言葉

 書物の言葉をそのまま使わず、受講者が業務や日常生活で使い慣れた言葉に置き換えるように努めたい。たとえば「業務プロセスのモニタリングシステムの確立が必須要件となります。」と言いたい場合、「自分の仕事の結果や途中経過を、他の誰かが後で確認できるような仕組みを用意しておくことが大切なのです。」と言い換えるのである。このような言い換えは、即興で行うのは困難である。準備の手間を惜しんではならない。

具体的な表現

 最近のコンプライアンス研修では、法令遵守の範囲を超えて、業務改善やマネジメントの領域に踏み込まざるを得なくなってきている。これらの領域は一般論で語られることが多く、講義でも抽象的な表現に陥りやすい。たとえば「緊密なコミュニケーションを心がけてください。」という表現では、何となくわかったが具体的なイメージがわかず、「みんなで仲良く昼食をとっていればいいのかな?」というような浅い理解に終わりやすい。これを「重要な伝達事項がある場合、メールを送って終わりにせず、直接本人に会って、きちんと伝えてください。」というように具体化すれば、何を求められているのかがより明確になるはずである。

誤解を避ける言い回し

 曖昧な表現はもとより、極端な言葉遣いによる予期せぬ誤解も避けなければならない。人は自分に都合のよいように理解したがる性質を持つといわれる。したがって、「ここは誤解の恐れがある」と感じた場合には、必ず念押しをする、繰り返し説明する、文字にする、図表を活用する、といった多様な手法を併用するように努めなければならない。また、講師の個人的な見解を語ることは極力避けなければならない。どうしても必要な場合には、「私個人の考えで、会社の見解ではない」という前置きを忘れないこと。

難しい概念の伝達法

 コンプライアンス研修では、概念として難しい話は少ないであろうが、難解な法解釈の解説などはあるかもしれない。このような場合の対処法は既に述べたことを総動員することであるが、それと同時に「これだけ主義」を活用することが有効である。すなわち、「詳しい考え方はここまで述べたとおりですが、皆さんは実務家として、これと、これと、これだけはしっかり覚えておいてください。」というように、「今のあなたに最低限必要なのはこれだ」という最低ラインを示すことで、「がんばって理解しよう」という学習意欲が生まれる。そして「この範囲を超えることは、必ず我々に相談してください」という念押しも忘れないこと。

<5 Check Points>

  1. 分かりやすい表現の第一歩は、自分がそれを理解すること。
  2. 使い慣れた言葉に置き換えることで理解度は大きく改善する。
  3. 具体的な表現に変えることで、イメージを湧きやすくする。
  4. 誤解を招く恐れのある話は、繰り返し念押しを忘れないこと。
  5. 受講者が理解すべき最低ラインを示すことで安心させて動機づける。