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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(入門編)

14.居眠り対策

 睡眠学習でもない限り、居眠りは最大の学習阻害要因である。また、受講者の居眠りほど講師の自信を失わせるものはない。講師にとって、居眠り対策は研修会場での緊急対策として最大の課題なのである。しかし、居眠り対策のかなりの部分は事前の措置が可能である。時間配分、会場設定はその代表的なものであり、講義以外の学習手段を予め研修に組み込むことも有効な対策である。それでも居眠りが発生した場合には、その場での工夫により緊急対策を施すことになる。

集中の阻害要因

 1人の居眠り受講者を見つけたら、その数倍の予備軍がいると思わなければならない。受講者の集中力が維持できていれば居眠りは起こらないから、集中力を失わせるものを排除することが居眠り対策の基本である。阻害要因には、学習に不向きな環境、生理的な要因、疲労、講義の単調さ、講義への失望、講師への反発などが考えられる。後半の3点については、他の項で検討したので、ここでは前半の要素について考えてみる。

研修の時間設定

 人間は体内時計に影響されるため、正午過ぎの時間帯は眠気のピークとなる。加えて昼食の直後で消化器系に血液が集中し、また食事で上昇した体温の低下による眠気が加わり、いよいよ睡魔が猛威をふるう。できればこの時間帯の研修は避けたいところである。コンプライアンス研修では3時間未満の講座が多いため、午前中に集中的に実施することも可能であろう。業務都合で午前開催が難しいときは午後になるが、あとで述べる講義以外の学習手段を併用することで、睡魔対策を行いたい。また、TVの影響で現代人の集中可能時間は短くなってきている。連続した講義時間は最長で60分以内に収めたい。1時間につき10分程度の休憩は必要である。

会場の気温設定

 次に影響の大きいのが室温である。高すぎる室温は受講者に不快感を与えるだけでなく、居眠りの原因になりやすい。逆に寒すぎると健康管理上の問題も懸念される。大まかに言って、冷暖房の入っている部屋の場合、立って講義を行う講師がちょうどよいと感じる場合、受講者はやや寒いと感じていることが多い。講師がやや暑いと感じる程度でちょうど良いのではないかと思われる。

受講者を動かす

 講義の途中で受講者に疲労が見られ始めた場合、若年層の研修であれば簡単な体操を行うことで気分転換が可能である。受講者が管理職以上の場合には、さすがに体操はやりにくいだろうが、そのような場合には、「13.アガリへの対処」で紹介した指まわしなどをやっていただくことも効果的である。隣席の人同士の討議などを行う研修では、簡単な席替えを行うことで、体も動き、気分も新たになるため、居眠り対策として有効である。郊外の研修施設の場合なら、窓を開けて空気の入れ替えを行ってもよいであろう。また、既に述べた発問や後で述べるクイズなどを急遽組み込むことなどにより、居眠り対策の効果をあげることもできる。適度なストレスが有効なのである。

講師自身が動く

 誰にでもできる簡単な工夫でありながら、意外に実践されていないのが「講師自身が動く」ということである。大きな会議室で、巨大スクリーンにスライドが映写され、講師は教卓にかじりついてマイクで話し続けるという光景がよくみられるが、これは居眠り防止の観点からは最悪と言ってもよいであろう。講師は教卓から離れるべきである。スクリーンの前を大胆に歩き回るべきであり、ときに受講者の席に歩み寄り、発問を投げかけるべきである。講師が動けばスクリーンに固定されていた受講者の目や首が動き、単調さから解放されて集中力を維持できる。

<5 Check Points>

  1. 居眠り防止は集中の阻害要因の排除が基本である。
  2. 眠い時間帯に、長時間の講義を続けてはならない。
  3. 教室の温度は暑からず寒からず、講師ではなく受講者に合わせる。
  4. あらゆる手を使って適度なストレスを与え続けること。
  5. 講師が動けば受講者も動く。教室全体を固まらせるな。