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コンプライアンスインストラクター・ハンドブック
(入門編)

17.ケースメソッドの指導法

 ケースメソッドは、コンプライアンス研修では講義についで重要な教育技法である。比較的準備が容易で、受講者の積極的な参画を促すことが可能であり、深い気づきにつながりやすい点で優れた技法であるといえる。しかし、誤ったケース活用や不十分な指導も見られ、せっかくのケースメソッドが所期の成果に結びついていない例も見られる。正しい指導方法を理解しておくことが必要である。

ケースメソッドとは

 一般にケースメソッドとは、一連の事実をストーリーで表現(ケース化)し、その主人公(個人または組織)が直面している課題について、「自分だったらどのように考えるか」「その判断根拠はなにか」という点について検討することで、様々な知識の活用に習熟することや、有意義な気づきを促すことを目的とした研修技法である。

実際事例と架空事例

 臨場感と事実が持つ説得力を享受できる点で現実のケース(実際事例)は優れているので、大学院のMBAコースなどでは現実の事例を使用することが多い。しかし、コンプライアンス研修では不祥事事例を扱うことが多いため、架空のケースが多用される。また、コンプライアンス研修では時間に制約があるため、実際事例では状況理解に多大の時間を要すことがネックとなる。30分から1時間程度で完結できるように考えれば、結果として架空ケースに落ち着くことが多いようである。

個人検討とグループ討議

 ケース検討を個人単位で行うか、グループで行うかにより、学習効果はかなり異なってくる。結論としてはグループ討議を行う方が好ましいといえる。短時間で完了させるため、ケースによっては「落としどころ」が明快なものがある。それを個人で検討してしまうと「駄目なものは駄目」という建前論に終わり、学習効果が乏しくなる。グループ検討の場合には、「そうは言っても、現実にはついやってしまうよね」というような本音の議論も出てきて、「なぜそうなるのか?」「そうならないために必要な心がけは?」という深い議論が可能である。逆に複雑な問題を扱ったケースでは、個人検討では能力不足が原因で「歯が立たない」という受講者が出て来る恐れがある。そのような場合でも、グループで共同検討することにより、なんとか問題解決の糸口を見出すことも可能となることが多い。

グループ討議の指導法

 ケースについて何を検討させるかは、研修目的により異なる。多くの場合、コンプライアンス研修でのケース検討の目的は、問題事例を読んでその危険性を分析し、正しい行動の在り方を認識させることである。そのため、一般的には「このケースの問題点」「なぜ問題なのか」「どのように対処すべきか」といった検討を求めることになる。

討議指導の留意点

 講師の主たる役割はファシリテーションになるが、グループ検討であるため集団の自治を重んじなければならない。具体的には、演習の目的と進め方を説明したあと、司会者と書記担当などを選任させ、進行は司会者に任せるべきである。そのうえで活性度の低いグループや議論が袋小路にはいったグループが見られる場合にかぎり、介入して働きかけを行っていくことが望ましい。討議の結果は模造紙等にとりまとめ、必ず発表させることが重要である。発表を前提とすることにより、討議の活性度が飛躍的に高まる。

<5 Check Points>

  1. ケースのメリットは、手軽に高い学習効果が実現できることである。
  2. コンプライアンス研修では架空事例を中心に扱う方が良い。
  3. ケースでの検討事項は、研修目的に応じて選択する。
  4. ケース検討はグループ形式で相互啓発の効果を享受する。
  5. 講師の介入タイミングは慎重かつ最小限にすべきである。